プロローグ⑴ ─ようこそ【Zero】へ─
「キャー! 誰か助けて! 引ったくりです!」
若い女性の悲鳴が人混みの中に響いた。
白昼堂々、原付に乗った男がバッグを奪い走り去っていく。
「まったく……今日は休みだっていうのに……」
近くを歩いていた男がため息をついた。
黒髪に整った顔立ち。
だが服装はラフそのもの。
やる気のなさそうなその男は、ゆっくりと車道へ視線を向けた。
「邪魔だ退け!」
男のすぐ脇を原付が通り過ぎる。
そして次の瞬間だった。
「はい、どうぞ。これ、あなたのですよね?」
男は何事もなかったように、奪われたはずのバッグを女性へ差し出していた。
「えっ……? あ、はい……。え、なんで?」
女性は呆然としていた。
いつ取り返したのか。
そもそも、どうやって?
「俺は相津真一。
こう見えて一応、警察官だから、お礼とかはいいよ」
女性が男の顔を見る。
その瞳は、不思議な赤色に染まっていた──。
──これは、傷を抱えた規格外の七人が、警察庁の極秘部隊【Zero】として数々の事件に挑む物語──
──皆さん、はじめまして!
私の名前は『立花心春』《たちばな こはる》。
ごく普通の一般家庭で育った、22歳の元気だけが取り柄の女の子です。
特技はいろんな種類の運転免許を持っていることくらいです。
短大を卒業後、警察学校を経て、憧れの警察官になったのも束の間、配属された部署でミスを連発……。
落ち込んでいたところにダメ押しの辞令(部署異動)を言い渡され、半年前にここ──【特殊警備部隊公安第零課】通称【Zero】へ配属となりました。
始めは戸惑いばかりでしたが、優しく頼もしい上司、先輩方のおかげでわたしも少しずつ仕事に慣れてきました。
本日は皆さんにわたしを含めた【Zero】のメンバー七人を紹介していきたいと思います!───
──四月中旬。
春の日差しが清々しい午前八時、心春は【Zero】のオフィスに出社した。
「おはようございます!」
デスクに座ろうとしたところ奥の部屋のドアが開いた。
無精髭にYシャツ、緩めたネクタイ姿の中年男性が眠そうに頭をかきながら出てきた。
「ふわぁ〜、おはよう。
心春ちゃんは今日も元気いっぱいだね」
──この人は『柏木孝治』《かしわぎ こうじ》さん、40歳。
普段おちゃらけた感じだけれど、とても優しい人でいつもわたしに色々教えてくれます。
【Zero】の責任者で肩書はなんと「警視長」!
また柏木さんの意向で、ここでは敬礼や肩書呼びは全て禁止です。
【Zero】では上層部とのやり取りや各種手続き、必要物資の調達をしています──
「柏木さん、今日は早いですね。
コーヒー入れましょうか?」
「じゃあお願いしちゃおっかな。
あ、ついでに翔の分もお願いしていい?」
「はい、大丈夫ですよ」
「柏木さんはブラックで、翔くんのは砂糖ミルクたっぷりですね!」
「分かってるね〜、心春ちゃん!」
──翔くんの名前は『二階堂翔』《にかいどう しょう》21歳の男の子です。
肩書は「警部補」。
わたしより肩書は上だけど唯一わたしより年下です。
家がないそうでオフィスにほぼ住んでいます。
見た目は可愛らしいのに言い方がキツいのが玉にキズ。
柏木さん曰く、「ひねくれたクソガキ」みたいです。あはは……。
【Zero】ではオペレーターとしてコンピューターシステムの管理運営を担っています。
わたしはよく分かりませんが、昔は「ハッカー」っていうのだったみたいです──
「翔くん、コーヒー入れたよー。
はい、これは柏木さんの分です」
「ありがとう、心春ちゃん」
「あれ?心春ちゃん来てたんだ……」
翔が奥のドアから目を擦りながら出てきた。
「はい、これ翔くんのコーヒー。
あんまり目を擦っちゃダメだよ」
「うるさいな〜、昨日徹夜だったんだよ…」
眠そうにコーヒーを飲む翔にやれやれと思いつつ、自分もコーヒーを飲む。
「そういえば、相津さんまだ見てないですけど、
この時間にいないの珍しいですね」
コーヒーを片手に奥の部屋を覗いてみたが誰も居なかった。
「ああ、ちょっと調べものがあって昨日遅くまで仕事してたんだ」
「俺と翔はここに泊まったけど、あいつは朝方に一旦、帰ったんだよ」
「だから昼過ぎまで来ないんじゃねーかな」
「そうだよ!
誰かさんたちに付き合わされていい迷惑だ」
「僕のゲームする時間を返してほしいね」
「あはは……」
(結局寝ないでゲームするんだろうな)
──午前九時。
書類整理作業をしていたら出入口の扉が勢い良く開いた。
「オーッス!今日もいい天気だな!」
190cmはあろう巨漢の男の声がオフィス内に鳴り響いた。
「うるさいなー、静かにしてよ!
ホント脳筋ゴリラなんだからさぁ……」
翔が不機嫌そうに悪態をついた。
「おはようございます!ジョージさん」
「おはよう、ジョージ」
「おう、孝治!心春!
翔は元気じゃねーな、天気もいいし、外出て走ってこいよ!シャキッとするぜ!」
──筋骨隆々の大柄な男性は『桐島ジョージ』《きりしま じょーじ》さん。30歳。
アメリカ人と日本人のハーフでみんなを気にかけてくれる元気なムードメーカー!
昔は軍人さんだったと聞いています。
ジョージさんは実は警察所属では無く、「業務提携」というかたちで【Zero】の一員となっています。
翔くん曰く、「デリカシーのない脳筋ゴリラ」みたいです。あはは……。
【Zero】では主に現場仕事でオフィスにいる時はだいたいテレビ見てるか、筋トレしてますね──
「意味分かんないんですけど!」
「走るとかあり得ないし、僕は今から寝るんだよ!」
「どうせまた夜遅くまでゲームしてたんだろ?」
翔とジョージが言い合う中、また入口の扉が開いた。
「グッドモーニング!」
日本人離れしたスラッとしたイケメンが、金髪の前髪をかき上げながらオフィスに入ってきた。
「まったく、下品な声が部屋の外まで響いていたよ」
「こんなんじゃ私に会いにくるカワイイ娘が、部屋に寄りつかなくなってしまうじゃあないか君たち」
「あ、レオさん、おはようございます」
──「レオ」と呼ばれるイケメンさんは『レオナルド・ガルシア』さん。
28歳のアメリカ人です。
愉快で面白い人ですがわたしのことを子供扱いするので少し意地悪です。
元殺し屋さんみたいなのですがわたしは全然イメージ出来ないです。
レオさんも実は警察所属では無く、「有期契約社員」というかたちで【Zero】の一員となっています。
ジョージさん曰く、「キザなナンパ野郎」みたいです。あはは……。
【Zero】では潜入捜査でオフィスにいないことが多いです──
「けっ!
かってにほざいてやがれナンパ野郎が……」
ジョージが呆れた顔で言うと奥の部屋へ行き、ソファに寝そべりながらテレビを見始めた。
翔も「おやすみ〜」といいながら更に奥へと消えていった。おそらく寝にいったのであろう。
うるさかった二人を横目に柏木が声をかけた。
「おはよう、レオ。
昼頃で良かったのに早かったな」
「今日は全員の写真撮影だからね!」
「私のカッコイイ姿を残す為、しっかり準備しないといけないからさ!」
「さいですか……。
でもこの写真は内部保管用だから表には出ないぞ、そもそも俺たちは極秘部署なんだから広告みたいなことはしねーよ」
「はぇっ?そうなんですか?」
「わたしてっきり広告だと思って、この部屋に飾ろうとフォトフレームまで用意しちゃいました……」
心春が驚いた顔をして柏木に聞いた。
レオも同じような顔をして柏木を見ている。
「まあ表向きの説明は警察のPRだけど、部署によりけりだな」
「刑事部や交通課、広報なんかは大々的にPRするだろうし」
「まあ外には出せねぇが、ここに飾るくらいはいいんじゃね」
「ふぇ?ホントですか!?良かったですぅ!」
「この部屋にしか僕の魅力を残せないのは非常に残念だけれど、まあ無いよりはマシか」
そんなことを話しながらレオはデスクに座り、髪の毛のセットをし始めた。
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