Ep.33 将来
子どもが夏休みに入り、私の生活リズムが
崩れております……orz
更新が滞ってしまい、すみません┏○))ペコッ
「ご機嫌よう、アンネ」
「いらっしゃい、マギー」
マギーは約束通り、アルバの王都邸へやって来た。
庭園に用意した茶会の席に案内すると、既にテーブルにはお菓子が載せられた皿が並べられ、すぐに紅茶が供される。
たっぷりとミルクを注いだ紅茶をティースプーンで混ぜてカップを口に運ぶと、マギーも後に続いて紅茶に口を付けた。
「————それで? 今回、王都へ戻った理由は? 何もなく戻ったわけではないでしょう?」
端的にマギーが問い掛けてきたことに、わたくしは小さく笑う。
「ふふっ、相変わらず単刀直入ね。そうよ、今回は王家にアルバの『今後』を伝えに来たの」
「…………今後、というと……やはりアルバは『独立』するのかしら?」
可能性の一つとして、既に予想はしていたのだろう。
「——当初の予定としては、そうだったのだけれどね……」
マギーの言葉に、わたくしは困ったように眉尻を下げて肩を落としてみせた。
わたくしは人払いをし、マギーに最近の事の顛末を話した。
「————やはり、アルバは独立しようとしていたのね……」
アルバに近い関係、もしくはそれなりに考えることが出来る家門ならば、『アルバの独立』は想定の範囲内だったろう。
「結局、アルバはどうするの?」
「そうねえ……。まあ、今日の貴族院会議の結果にもよるかもしれないけれど、ただ確実なのは————アルバはルクスフォード王家に仕えることは二度とない、というところかしら?」
独立するとしても、ルクスフォード王国を呑み込むとしても——どちらにしても、アルバが『臣下』のままでいるという選択肢は、最早ない。
「独立したら貴女は『公女様』となるけれど、ルクスフォードをアルバに変えたなら、貴女は何になるつもり?」
「…………それは、どういう意味かしら?」
マギーは平然とカップに口を付けてから、そう問い掛けた。
わたくしは微笑みを消して、そんな彼女を正面から見据える。
「————言葉の通りよ。公国となるなら貴女に与えられる選択肢は一つだけれど、ルクスフォードがアルバになるのなら、貴女には『王女』になるか、もしくはアルバ公爵家を『継承』するか…………その二つの選択肢が与えられるわ」
二人の視線が交わり、お茶会に似つかわしくない重い沈黙が流れた————。
少しの間の後、わたくしは目を伏せて一つ溜め息を吐き、困ったように彼女へ再び視線を向けた。
「全く…………困ったわね。まだお父様たちにも言ってないのに」
マギーの予測を肯定する言葉を発すると、彼女はしたり顔で「わたくしを誰だと思っているの?」と言いながら、閉じたままの扇子を口元に添えた。
「初めは本当に『留学』しようかしら? とも考えたのよ? けれど、どうせなら今まで王太子妃教育で身に付けたものを活かしたいじゃない?」
わたくしはそこで一度言葉を切ると、冷めた紅茶を口に含んだ。
重い話が続いているせいか、今は熱めの物よりも少し冷めた飲み物のほうが喉の渇きを潤してくれる気がする。
「…………アルバが『国そのもの』になるのなら、公爵位が空席になる。王族になってしまえば、今までと同じような方法で物事を進めることが出来なくなるかもしれないわ」
「なら——お父様やお兄様の代わりに、わたくしがそれをやってもいいでしょう?」とにっこりと微笑むと、そんなわたくしを見て、マギーは呆れた表情を浮かべていた————。
——————
「————先ほど、王城から遣いが来た。国王が議会でアルバに国を渡すことを『宣言』したそうだ」
夕食を終え、食堂で食後のティータイムを取っていると、お父様が静かに口を開いた。
まあ、そうなるだろうとは思っていたけれど、国王陛下が貴族院を『押し切れるのか?』が疑問点だった。
今回ばかりは陛下も『後がない』ことを理解していたようだ。
「ちなみに、会議中に騒いだのはどこだったんですか?」
「大体がクレアモア侯爵家あたりだな。後は自らに後ろ暗いところがあり、金魚の糞のように便乗した小者だ」
お父様が淡々と答えると、お兄様は「へえ、クレアモアですか」と、どこか楽しそうだ。
クレアモア侯爵家————王妃殿下の生家だけれど、特段王家のことに口を挟むような家門ではなかったし、わたくし自身も無礼な態度など取られたことはなかった。
————けれど孫二人が王位を継承出来ないとなったことは、さすがに不都合だったのかもしれない。
現当主は王妃殿下の父君で、クレアモア侯爵家の地盤を固めた者でもある。
しかし世代で言うなら侯爵は一世代前の方であり、通常であれば既に代替わりしているはずなのだけれど、嫡男である王妃殿下の弟君は残念ながら少し浅慮なところがあり、爵位を渡すことに躊躇していると聞いていた。
年齢も年齢である為、フェリクス殿下が即位する前には嫡男へ継承させるか、それともその子である孫がもう少し成長していたら飛ばしてしまうか…………を決めるはずだった。
侯爵としては、家がそんな状態なのに国自体が代わるのは予想外だったろう。
娘が王妃となり、そして孫が国王になる————いかに浅慮な当主だったとしても、その次代になる頃までは『王家の方で上手く扱えばどうにかなる』という考えもあったのかもしれない。
侯爵としても、嫡男を飛ばして孫に継承させるのは周囲の目を考えると、あまり好ましいものとは言えなかっただろう。
「クレアモア侯爵家自体には後ろ暗いことはないだろう。ただ単にあの老爺は私のことが気に入らないだけだからな」
「ですが、分家あたりは違うでしょうね。逸脱して大それたことはしていないでしょうが、それなりに便宜などは受け、フェリクス殿下かシルヴァン殿下が即位した暁には…………」
「なあんてことくらいは考えていたでしょうね」と、明るく言い放った。
クレアモア侯爵は高位貴族家の当主として、分家の行いは把握しているだろうけれど、それほど厳格には見ていなかったはずだ。
ある程度、『旨味』を味わわせておいた方が楽に統率出来るし、それは『特権階級』には許されることではある。
————逆に、アルバはそれを許さない。
それはそれだけアルバに向けられている視線の数が多いから——ということもあるけれど、分家の緩みを許せば、いずれ隠れて取り返しのつかないことを仕出かす可能性があるからだ。
必要以上に締め上げることまではしないけれど、逸脱することは許さない————それがアルバの『庇護下』に置かれている者たちの規律である。
「…………お父様とお兄様にお話がありますの」
手に持っていたカップを静かにソーサーの上に戻し、目の前に座っているお父様とお兄様を、わたくしは真っ直ぐと見つめた。
マギーにも予測されていたのだから、この二人が思い至らないわけがないのだけれど、自分の口から伝えるのがけじめだろう。
二人は、わたくしが継ぐ言葉を黙って待っている。
「アルバが王家になりましたら————わたくしがこの家を継ぐことをお許し下さいませ」
動揺することなく平然と紡いだ言葉を聞き、先にお兄様が口を開いた。
「————うん、そうだね。アンネならその選択をするんじゃないかとは思っていたんだ」
「そうだな。————それに、王女になってしまうと他国に嫁ぐ可能性が高い。この家を継げば、アンネが嫁ぐ必要はなくなるからな」
お父様の言葉にお兄様は深く頷いている。
わたくしが他国に嫁ぐことを良しとしない二人らしいけれど、正直なところ、アルバの王女を降嫁させるに相応しい家門があるか……という意味でも微妙なのだ。
あるとしたらアステリア公爵家なのだろうけれど…………別にアステリア公爵家の後ろ盾がなくとも、お父様やお兄様なら他の貴族をまとめ上げることは出来る。
穏やかな笑みを浮かべながら、この家を継ぐことを二人が認めてくれ、わたくしの今後が決まった。
誤字報告ありがとうございます┏○ペコッ




