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お心のままに動いた結果でしょう?  作者: シエル


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Ep.24 釈明






「一体、これはどういうつもりですの!?」


「ゾフィ嬢。これは王命だ。近衛騎士団長の名において、速やかにお前たち二人を王都へ連れ戻す」


「なっ……! わ、わたくしたちはただ、息子と娘に会いに行くだけですわ! それなのに…………!」



私とお母様は騎士たちに囲まれ、馬車から降りるしかなかった。



国王陛下の側に常に控えている近衛騎士団長がここにいる————それだけで、本当に陛下の命令だと分かった。



どうして、こんな早く……。




「……ゾフィ嬢はアルバ公爵家への接触を禁じられているはずだ。アマーリエ嬢も陛下の許可なく王都を離れることは許されない」



氷のように冷たい声と視線に、思わず体が強張った。



「……確かに勝手をしました……ですが、どうしてもお姉様に————」


「アマーリエ嬢」



私の言葉は、団長の低い声にかき消された。



「何度も諌められているはずだ。アルバ公爵令嬢は貴女の『姉君』などではない。そこを間違えるな」



…………どうして、どうして皆そんなことを言うの?




「アマーリエがアンネリーゼを『姉』と呼んで何が悪いと言うの!? 二人ともわたくしが————」



お母様が声を荒げた瞬間、団長の鋭い視線を向けられてビクリと肩を震わせて、口を噤んだ。



「確かにゾフィ嬢が二人を生んだのは事実だ。しかし、だからと言って『姉妹』と呼べるかどうかはまた別の話だ。……貴女も貴族なら、その辺りはよくご存知のはずだが?」



お母様は何も言い返せず悔しそうに顔を歪め、手に持っている扇子がギシッと軋んだ。



「抵抗するなら少々手荒な真似も辞さない。痛い思いをしたくなければ素直に従って頂きたい」




————もう、選択肢などなかった。



再び馬車に乗せられ、騎士たちに先導されながら来た道を引き返す。



隣にはお母様、目の前には腕を組んで目を閉じたままの団長がいた。




「……何故、貴方がいらっしゃるのかしら? 馬車の中が狭いじゃないの」


「念の為の見張りだ。不満だろうが、貴女方が招いたことだ。我慢しろ」



お母様が不満を漏らしても、団長は動じることもなく淡々と返した。



————『貴女方が招いたこと』



その言葉がずっしりと胸の中に沈んでいく。



招いた? ただ、会いに行こうと思っただけなのに。


ただ、謝りに行こうとしただけなのに……。



……そんなに悪いことをしたと言うの?




カーテンが引かれた暗い車内でガタガタと揺れながら、馬車はただ進んで行く。



やがて馬車はピタリと停まり、外で何か話し声がしたかと思うとコンコンと窓を叩かれた。


団長がカーテンを持ち上げて確認し、小窓を開いて外の騎士から報告を聞く。



「既に閉門していたので、今急遽開けさせております」


「そうか。城門に配備されている者たちに労いの声を掛けておいてくれ」



城門に着いたと分かった瞬間、胸の奥がズシンと重くなった。



つい数時間前に出たばかりの王都へ、もう戻って来てしまった————。


状況を何一つ変えることも出来ないまま——それどころか、悪化してしまったかもしれない。



鋼で出来た堅牢な城門がギィーーッと開かれる音が響き渡る。


窓の外は見えないけれど、最後に見た時は陽が沈み掛け、辺りをオレンジ色に染めていた。




『オレンジ色』————フェリクス様の、王族の瞳の色。



…………これから、どうなるのだろう。




心にはぽっかりと穴が空き、虚無感しかない。


完全に城門が開かれると再び馬車は動き出し、そのまま王城まで停まることはなかった————。





——————





「降りろ」



先に馬車から降りた団長が、端的に命じた。



言われるがまま馬車を降り、数時間ぶりに地面に足を着けて顔を上げると、周囲を騎士たちに囲まれていた。



私の後に続いたお母様は、ブツブツと「何で、わたくしが命令されなければならないの」と文句を言っている……。



そのまま団長に先導されて王城内へ足を踏み入れたけれど、騎士たちは相変わらず私たちの周りを取り囲んでいる。


さすがにお母様もその雰囲気に圧倒されたのか、黙って歩いていた。



…………どこに向かっているのだろう?



緊張と不安に押し潰されそうで、胸が苦しい————。




「国王陛下がお待ちだ」



————辿り着いたのは、謁見の間の扉の前だった。



壮麗な両開きの扉がゆっくりと開かれ、団長に促されて中に進むと————高壇にある玉座には国王陛下がおり、その隣には王妃殿下、少し離れた場所には宰相閣下——そして階下にはフェリクス様とシルヴァン様がいた…………。




「陛下のご命令によりゾフィ・アイヒェン嬢、並びにアマーリエ・アイヒェン嬢をお連れ致しました」



団長が跪き、報告する声が広間内に響く。



「……うむ、ご苦労だった。戻って良いぞ」


「御意」



返事と共に団長は立ち上がり、いつも通り後ろへ控えた。


広間の階下には私とお母様、そして数名の騎士たちだけ。



…………何で、こんなことに……?



陛下たちの顔は厳しく、フェリクス様は少し憔悴して見える。


みんなの視線から逃げるように俯けば、自分の手が目に入った。



毎日整えられていた爪は少し欠け、手も乾燥して汚れている。


自分の格好に視線を移せば、侯爵家に行く前に目立たないように着替えた平民の安物のワンピース——それも茂みに隠れた際に汚れていた。



チラッとお母様に視線を向けると、王都から出る前にしっかり着替えていたおかげで『貴族』らしい格好をしている……。



そのことに気付いた瞬間、急に恥ずかしさが込み上げてきた。


あまりの惨めさにスカートをギュッと握り締める。



「アマーリエ嬢。私の許可も得ず、更にフェリクスやエーレン女官長にも告げず、勝手に王都から出たようだが——どこへ向かうつもりだった?」



突如、国王陛下の低い声に問い掛けられた瞬間、ビクッと肩が震えた。


先ほどまで頭を支配していた羞恥心や惨めさは一気に消え去り、血の気が引いていくのを感じる。



「そ、それは……お、お姉……あ、アルバ公爵令嬢に……」



恐怖で声は上擦り、上手く話せない…………。



「はあ、良い。代わりにゾフィ嬢が答えよ」



私が上手く答えられないことに痺れを切らしたのか、陛下は溜め息を吐いてお母様に命じた。


お母様も一瞬動揺を見せたが、平静を装いカーテシーをしてから問い掛けに答えた。



「お答え致します。わたくしと娘のアマーリエは、アルバ家におります息子と娘に会いに向かっていただけでございます」


「…………ほう。ゾフィ嬢はアルバ公爵家とは接触禁止だったはずだが?」


「ですが!! ……ですが、わたくしと息子と娘は親子です。親子の縁を切るなど非情過ぎますわ」



陛下から接触禁止を指摘されて声を上げかけたけれど、相手が陛下だったからか、すぐに落ち着きを取り戻して悲し気な表情を浮かべている。



「其方は自分が何をやったか覚えて居らぬのか? それとも、なかったことにしているのか?」


「……確かに、わたくしは妻として間違いを犯しましたが、それでも親子ですわ。きっと、あの子たちも……」


「アルバ小公爵とアルバ公爵令嬢から苦情が入っております。接触禁止を命じられているにも拘わらず、未だ手紙が送られてきて困っている、と」



その言葉にお母様は動揺を隠せず、視線を彷徨わせながら「そ、そんなはずは……」と呟いた。



その様子を呆れたような表情で眺めると、陛下は私へ視線を移した。



「アマーリエ嬢はアルバ公爵令嬢と会って、何をするつもりだったのだ?」


「……何を、ということはなく……ただ謝罪を……」


「謝罪だけなら手紙でも良かったのでは?」



陛下の追求に言葉が紡げず、黙ってしまう。




「陛下。その娘は大方、他の貴族子女に受け入れられないことから、アルバ公爵令嬢へ口利きをさせたかったのですわ」




それまで口を開かなかった王妃殿下が、厳しい口調で私の考えを見透かしたように淡々と告げた。






誤字報告ありがとうございます┏○ペコッ

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― 新着の感想 ―
ゾフィは貴族の常識がわかっててもこんな体たらくなんだから、そんなママの背中見て育った娘のアマーリエが貴族の常識なんて理解しようと思うわけなかったね。 アマーリエからしたら、ゾフィは厳しい罰受けるでもな…
ゾフィに対して通常未婚の若い女性に対する「嬢」という敬称呼びはないのでは。 いくら今は婚姻しておらず侯爵家の居候とはいえ違和感があります。
血統というものの認識がその程度の女が公爵夫人やってたということに驚き。
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