【1-18】 形勢逆転 上
帝国暦384年10月26日、ヴァーガル河を前にブレギア軍は停止した。
河川の先では、帝国軍が先の敗残兵を収容しつつ、陣立てを整えているという。その後背には、帝国の援軍も到着しつつあるそうだ。
「敵の動きが読めない以上、我らは一度戦況を静観する」
帝国側に動きが見え次第対処することとする――ウテカ=ホーンスキンの言葉を否定する者はいなかった。
彼の取り巻きたち御親類衆は当たり前だが、戦場での叩き上げである宿将たちからも異論の声は上がらなかった。
河向こうの帝国軍を崩そうにも、正面からかかったのでは、相当な被害が予想される。渡河の際、無防備な姿をさらすことになるからだ。
鈍足な筏の上で薄い防弾盾を掲げるだけでは、帝国軍小銃にとって良い的になるだけだろう。
何より、後方の帝国増援軍の動きがつかめない。そうしたなか、闇雲にヴァーガル河を渡り、水を背に布陣するのは、危険極まりないのだ。
ブレギア軍は、ヴァーガル河を手前に展開を終えた。
帝国・ブレギア両軍は河を挟んで対陣する形となった。
鳥が翼を広げたような美しいブレギアの陣形は、ウテカ=ホーンスキンが凡将でないことを物語っている。観戦武官たちは「優美で芸術的」な布陣を絵図に落とし込み、本国へ送付した。
それに比べて、帝国の陣形はうらぶれた敗残の前衛と腰の引けた増援の後衛とが離れていた。その距離20キロ。
【10月26日8時】ヴァーガル河の戦い 地図①
各国新聞は、「両軍の陣容からして開戦前から早くも勝敗が決している」と報道した。
ブレギアの御親族衆・宿老衆はもちろん、各国の観戦武官・新聞記者すらも、痛打を浴びたばかり帝国軍は、すぐには動けないと踏んだ。
事実、帝国軍に大きな動きは見られず、2つの陣営は合流する気配もなかった。
しかし、結果としてウテカの決断は、ブレギア軍が握り続けていた主導権を帝国軍に譲り渡すこととなった。
有り体な言い方をすれば、河の手前で布陣を整えることで、ブレギア軍は腰を落ち着けてしまったのである。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
ウテカもなかなかやるじゃないか、と思われた方、
腰を落ち着けてしまって大丈夫か、と心配な方、このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。
御親類衆が乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます。
【予 告】
次回、「形勢逆転 下」お楽しみに。
「1,200キロも離れた先の戦況にまで、口出ししてくるとは片腹痛い……」
河の向こうに沈んだ夕陽の残光を文字列に当て読み進めていくうちに、あばたの残るウテカの頬は歪んでいった。心底、不愉快そうに。




