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航跡 ブレギア国興亡記  作者: 秋山 文里
第1章 ヴァーガル河の戦い

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【1-19】 形勢逆転 下

【第1章 登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n6599md/3



【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

挿絵(By みてみん)


 ヴァーガル河を挟んで、ブレギア・帝国両軍の対陣は続いている。


 早い時間の夕食を済ませたあと、ウテカは御親類衆を引き連れ河辺を歩いていた。


 偵察などではなく、食ごなしの散歩だ。川幅の広い――対岸の帝国軍からの射程外――の安全地帯に限られる。



 そこへ、宰相・ラヴァーダからの電報を手にしたケルトハが、騎馬で追いついたのだった。


 下馬した息子は、父の前で威儀を正すと、通信筒と老眼鏡を差し出した。


「電報だと?」

 ホーンスキン家の家長は、それらをひったくった。しぶしぶといった様子で用紙を取り出すと、通信筒はその場に打ち捨てる。


 そして、大きな目を細め、眼鏡越しに紙片へ視線を落としていく。河の向こうに沈みつつある夕陽の残光を文字列に当てて。


 中身を失い地面に転がった銀製の筒を、ケルトハは拾い上げた。その薄茶色の頭へ、父の言葉がこぼれてくる。


「1,200キロも離れた戦況にまで、口出ししてくるとは片腹痛い……」

 あばたの残るウテカの頬は、歪んでいった。心底、不愉快そうに。


 ラヴァーダ宰相は、東の国境にあるトゥメン城塞で、シイナ国軍を食い止めているはずである。西の国境を超えたこの陣営まで、宰相からのメッセージが到達するのに、一体どれだけの無電中継基地を経由したことだろうか。



【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

挿絵(By みてみん)



 ケルトハによる中継地点のカウントは、ビリビリという音で中断された。


 見上げると、ウテカは電報用紙を2つに破り、さらにそれを細かく引きちぎっていく。


「ち、父上……」

 ケルトハの眼前を、数枚の紙片が風に舞っていく。それらは黄金色に光りながら、はらはらと河原へ落ちていった。




 ヴァーガル河畔に布陣するブレギア軍――その軍議の席は、いつの間にか作戦検討ではなく、戦後の恩賞検討が主題となった。


「今回の遠征で、うちは5,500人の兵を出しておる。それ相応の所領をいただかんと、配下たちが納得せんわい」

「うちは5,800だ。ジャルグチ様、われらにもそれなりに恩賞をいただかねば」

「いやいや、それは当家とて同じ」


 ブラン・スコローンにその分家の者たち――御親類衆による欲の面丸出しな激論は、収まる様子がない。


「……」

「……」

 前国主子息のレオンはもちろんのこと、御親類衆筆頭のウテカさえ呆気にとられていた。


「貴様の家は、2,800しか引き連れてきておらんだろが」

「なにを!お前たちは5年前の会戦の際も、国主から多くの領土を頂戴しているではないか」


 先代国主や宰相が居たころは、陣幕で取っ組み合いなど起こったことなど無かったのだが。前者が亡くなり、後者もはるか東の戦地にあっては、気も抜けたのだろうか。



 繰り広げられる醜いやり取りを、苦虫をかみつぶしたかのような表情で見つめていた宿将たちも、我慢の限界が来たようだった。


「見るに堪えんわ」

「聞くに堪えんな」

 気の短いブイクやナトフランタルは、バンブライの制止を振り切り、軍議の場を出ていってしまった。


 以降、軍議――気の早い論功行賞ろんこうこうしょう――の席には、宿老衆からはバンブライ父子しか姿を現さなくなった。かくいうバン将軍も、終始黙然と目をつむるだけで、発言など一切しない。


「初戦を終えたばかりで、もう恩賞談義ですか」

「……まったく気の早いことだ」


 若君・レオンは、筆頭補佐官・トゥレムの用意した一番水を喉の奥へ押し込んだ。苛立ちを呑み込むようにして。



【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


帝国軍と同じ軍制――所領規模に応じた軍役負担を採っている以上、論功行賞に陥るのも同じか、と思われた方、このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。


第1部【4-1】皮算用 上

https://ncode.syosetu.com/n8102if/33/


レオンたちが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます。



【予 告】

次回、「少年と宝箱」お楽しみに。

ほんの少しだけですが、レオンたちの少年の頃に時間軸を戻します。


金の髪と茶の髪をした2人の少年が、城の裏方へつながる通路を進んでいた。

彼らが小走りで目指すは、粗大ゴミ置き場である。


そこには、少年たちの好奇心をくすぐる()()がたくさん発掘されることがあり、彼らは定期的に大人の目をかいくぐっては、そこへ忍びこんでいた。


「ルフは誘っていないのかい」

ケルトハは茶色い顔を振り、周囲を見回す。


「あいつがいると、探検がしにくいだろう」

レオンは小さな腕を組み、顔をしかめた。

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