【1-17】 初勝利
初戦は、ブレギア軍の大勝であった。
帝国暦384年10月17日、アリアク城を出たブレギア軍は、ヴァナヘイム領を西へ進むこと30キロの地点で、帝国軍と遭遇した。
帝国軍とは言いながらも、その実は降伏した旧ヴァナヘイム国軍であった。しかも、ブレギア国境付近における中小豪族の寄せ集めでしかなかった。
戦闘の序盤こそ、砲兵どうしの応酬では拮抗したかに見えた。しかし、中盤以降にブレギア騎翔隊が投入されると流れが変わる。
銃騎兵の圧倒的な推進力と正確な射撃とを前に、旧ヴァナヘイム国側は次第に崩れ、遂にはなすすべもなく馬蹄によって蹴散らされた。
ウテカ=ホーンスキンをはじめとする御親類衆は沸いた。
どのような事情であれ、対帝国戦における勝利は勝利である。しかも小賢しいラヴァーダ宰相不在ながらの圧勝であった。
国主崩御後の一戦における快勝は、新聞各紙も紙面を大きく割いて報道した。
「ジャルムチ様、おめでとうございます!」
「ジャルムチ様のお姿が一面に!!」
「記者たちがジャルムチ様への取材を希望されていますぞッ」
新聞を手に囃し立てる御親類衆たちを前に、おう、おう、とウテカは応じながらも、痘痕面を緩めずにはいられなかった。
「初戦に勝っただけで、有頂天になってはいかんなぁ……」
周囲の臣下たちをたしなめながらも、ウテカは率先してグラスを持ち、祝宴の陣頭に立ち続けた。言葉とは裏腹に、鼻の穴を広げながら。
「いったいいつまで酒宴を行う気なのやら」
「だいたい、ありゃ帝国の旗を持っただけのヴァナヘイム兵じゃろうて」
久々の戦場での高揚感にくすぐられながらも、ナトフランタルやブイクをはじめとする宿老たちは、御親類衆の輪から距離を置いていた。
レオン以下の若き集団も、戦勝祝いの輪に加わらなかった。彼らは、少なくない手勢とともに安全な丘上に置かれ、そこから戦闘の様子を眺めるだけだった。
ウテカは、若者たちには発言の機会と同様に出撃の機会も与えなかったのである。
彼らに出来たことは、斥候を方々に放ち、敵情を把握することだけだった。
若君、彼等をご活用ください――それら斥候騎兵は、ラヴァーダがシイナ国牽制のために出立する折、レオンに預けていったものである。
この斥候騎兵が正確に情報を集め続けたことで、ブレギア軍は常に先手を握り続けることができたのであった。
戦場での形勢を決定的にした銃騎兵といい、前線から次々と戦況を届けた斥候騎兵といい、ホーンスキン一族が浮かれている勝利とは所詮、宰相・ラヴァーダがつくりあげた土台の上でしかなかった。
しかし、祝杯を掲げる者たちは、そのような事情を知っていようと知るまいと、ジャルグチの前では、おくびにも出さない。
10月25日、勝利の余勢を駆るようにして、ブレギア軍はさらに50キロ西へ進軍した。
彼らの目の前にはヴァーガル河がゆったりと流れていた。
この河は、ヴァナヘイム東方の地を、南北に走っている。
初戦に敗れた帝国軍は、河向こうに再結集したものの、再び渡河を試みるような気配すら見せなかった。
さらに、その後方――西方20キロ先にも、帝国援軍が終結しつつあるという。
両軍は河を挟んで対峙する形となった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
宰相不在なれども、彼の存在の大きさを感じられた方、このページの下側にある「ブックマークに追加」や「いいね」ボタン、【☆☆☆☆☆】をタップいただけましたら幸いです。
レオンたちが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます。
【予 告】
次回、「形勢逆転 上」お楽しみに。
鳥が翼を広げたような美しいブレギアの陣形は、ウテカ=ホーンスキンが凡将でないことを物語っている。観戦武官たちは「優美で芸術的」な布陣を絵図に落とし込み、本国へ送付した。
それに比べて、帝国の陣形はうらぶれた敗残の前衛と腰の引けた増援の後衛とが離れていた。




