【1-9】 軍備負担と発言力
【第1章 登場人物】
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【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編
帝国暦384年9月10日――先代国主・フォラ=カーヴァル崩御から1年。
喪明けに合わせた新たな出兵・国防策の方針検討のため、ブレギア各地の領主たちは主都・ダーナに呼び集められた。
この日も先王の義弟・ウテカ=ホーンスキンは立ち上がると、軍議の進行を仕切りはじめる。各種報告をうながし、それらへの対処策が彼の口から伝えられていく。
この国では、先王の晩年――彼が体調を崩して――から臣下1人1人が有する自領の多寡が、発言力の重軽に直結するようになっていた。
帝国からの亡命者たちが建国したブレギアでは、皮肉なことにその軍制は母国のものを倣うこと久しい。
すなわち、戦いの規模が大きくなるにつれて、兵卒・軍馬・糧抹・弾薬の負担割合は、臣下たちの自領のサイズに比例するようになっていた。
そのような軍制の都合、莫大な負担を引き受ける者が、政軍談義の場で発言力が増すのは当然の流れであっただろう。金を出す分、口も出すのだ。
こうして、国主に次いでこの国の大部分の領土を有するウテカ以下、御親族衆の言葉が何よりも優先されるようになっていた。
一方で、数多の戦功を挙げ、先王に重用されてきたバンブライ以下、譜代の臣下は軽んじられるようになっていく。
国政の間での席次にも、それは如実に表れていた。
ブレギアにおける内政・外交・軍事の方針を素案から練る広間には、重臣たちが集い議論を重ねてきた。
そこでは、大きくロの字を描くようにして、テーブルと椅子が配置されていた。
【席次】ブレギア国 国政の間
これまで国主・フォラと宰相・ラヴァーダが腰かけていたのは、中央上座――北側の面――だったが、国主死後、こうした最高貴賓席は設けられなくなった。
帝国の慣習では、陽が昇る東側を、陽が沈む西側よりも重く見る。
国主亡き後、ブレギア主脳会議では、その義弟・ウテカを筆頭に一族将軍たちが東側の面座を占めていた。まるで、当然のことのように。
アルレル、クーウル等文官のほとんどは、ホーンスキン家に与し、東側の2列目、3列目のテーブルに着いた。
東側の面をホーンスキン一派に占領されたため、国主子息・レオンとその若き補佐官たちは、その斜め向かい側・南側の面に不承不承、腰かけざるをえなくなっている。
一方で、西側の面には、ドネガル、バンブライ、ブイク、ナトフランタル、ボルハン、ブルカン等、先代以来の歴戦の勇将たちが、会議のたびに面白くもなさそうな顔を並べている。
それでも、ドネガルの弟たち――クイル、ケフト、グレネイのほか、バンブライジュニア――スリーヴ、さらにアニュヴァル、メイヴ等、武官の多くは西側の2列目・3列目に続いた。
先王崩御後、「所領規模・動員兵力と発言力の相関性」は、宰相・キアン=ラヴァーダにとっても無縁ではなかった。
譜代将軍たちのなかで、自領の最も少ないラヴァーダは、西面最前列ながら末端の席に座るようになった。しかし、発言を求められる機会も次第に少なくなっていく。
ラヴァーダは、その卓絶した功績と自領のサイズがまるで釣り合っていなかった。
生前、国主・フォラが何度も領地加増の話をもちかけた。しかし、この白皙の宰相は、すべて固辞している。
彼は、自らが食べていくに困らない程度の領土さえあれば、十分であるとの自説を曲げなかったのである。
帝国暦384年9月10日、ブレギアの国政の間では、一通りの報告事項が済むと、いよいよ本題に入った。
ウテカ=ホーンスキンの口から発せられた新方針は、一部の者たち――西側の席に座っていた宿老たち――にとっては、寝耳に水であった。
「本日、先代国主の喪明けをもって、旧ヴァナヘイム領への侵攻準備を開始する」
昨年、先代の崩御を契機に、ヴァナヘイム国への援軍派遣――帝国軍の後方攪乱――をとりやめた。
そればかりか、一周忌を機に火事場泥棒のような作戦実行に踏み切るというのである。
ウテカはいろいろと理由を掲げたが、何のことはない、帝国に咀嚼・消化されていく隣国について、指をくわえて見ているのが惜しくなっただけである。
腐肉の一部だけでもおこぼれにあずかりたいという、あさましい性根がもたげたのであろう。
しかし、この1年を通じて、東側と南側の席の者たちに対する、先代国主義弟による根回しは十分に進んでいた。
この日、国政の間では、諸将へ意思確認するだけであった。西側の席――老将たちの反論は虚しく受け流された。
帝国に攻め込まれ瀕死の状態となったヴァナヘイム国へ、ブレギア軍も侵攻する方針があっさりと決定されたのであった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
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【予 告】
次回、「東の大国、動く 上」お楽しみに。
「トゥメン城塞より至急電!シ、シイナ国が、我が国へ侵攻せんと、出兵の兆しありとの由」
「な、何だと!?」
「シ、シイナ国が……」
御親族衆およびレオンの補佐官たちはみな、椅子から飛び上がった。
宰相はティーカップに伸ばした白い手を止めた。眠たそうだった老将たちは、わずかに目覚めたようだった。




