90 突きつけられた現実(メアリー編)
「あら、よく臆面もなく顔を出せたものね」
「本当ですわ。あんな虚言を吐いたのですもの。学園になんて顔を出せないかと思いましたわ」
王立学園に戻ってみると、近くを歩いていた人たちにこんな暴言を吐かれた。
ひどくない!? 別にあの子たちに迷惑をかけたわけでも何でもないのに、なんであんなことを言われなきゃいけないわけ!?
文句を言いたくて近づこうと思うも、私の右手は新しくつけられた従者にしっかりと握られていて自由に歩くことができない。
王立学園に復学する条件として、お父様が新しくつけた従者なんだけど、お父様から命令を受けているらしく私の言うことは聞かない。
見てなさいよ! こいつが離れたら暴言を吐いていたやつらに文句を言ってやるんだからっ!
「キミはしばらくは指導室でマナーの教育だ。復学が認められたからといって、罰を受け終わったと思ってもらったら困る」
「はあっ!?」
「その言葉遣いは何だね。驚いたとして、淑女ならば大声を上げない」
「マナーなんてできています。バカにしないでください」
「その態度がマナーをわかっていない証左だ。キミは男爵令嬢。王立学園に通う貴族の中で最も下なのだぞ。マナーを理解していれば、そんな反抗的な態度は取らないはずだ」
はあっ!? 男爵令嬢だから従順に言うことを聞けなんて、そんなの差別じゃない!
「お言葉ですけど、王立学園では身分の上下はないんでしょう? だったら、そんな言い分に従う必要はありません!」
アニメでは男爵令嬢だった主人公が王子や上位貴族と恋仲になっていたし、主人公をイジメたって理由で公爵令嬢が処刑されていたのよ。
それを考えたら、男爵令嬢だから従順にしろなんて、おかしな言い分だわ。
「そんなこと誰に聞いたんだ? 王立学園では身分の上下がある。社交界の縮図なのだ、当り前だろう?」
「……え? でも、アニメでは」
「……ああ、キミは異世界転生者なのか。道理で頭のおかしい行動ばかり取っていると思った」
「異世界……なに? あなたも転生者なの!?」
目の前にいる教師の口から聞き捨てられない言葉が飛び出した。異世界転生者って、確かにそう言った!
なによ。文句ばっかり言うと思ったら、こいつも異世界転生者だから、主人公である私の邪魔をしてきてたのね。
「勘違いしないように。私は純粋にこの世界で生まれ育った存在だ。キミのように前世の記憶があると言って、暴走する人間の記録があるんだよ。彼らは一様に異世界の記憶があり、自分は主人公だと証言している」
「……は? ……え?」
「そのどれもこれもが、何の証拠もないものばかりだがね。彼らの話を聞けば、この世界と似ても似つかないものばかり。キミは何だ? 魔法で世界を救うのか? それともどこぞの国の王子と結婚するのか?」
何を言っているの? 私のほかにも異世界転生者がいる? 主人公を名乗っている?
「わ……私はメアリー・ブラウン。世界樹を癒せるこの世界で唯一の光魔法の使い手よっ!」
「ははっ! 世界樹! それに光魔法ときたか!」
半ばヤケクソ気味に叫ぶと、その言葉を理解した教師は急に笑い出した。
「何がおかしいのよ!」
「この世界にはね、世界樹も光魔法も存在しないのだよ」
「……は?」
確かにお父様も光魔法の話をしても何のことだと怒りだしていた。あの時はお父様が無知なだけだと思っていたけど、王立学園の教師が知らない?
いえ、そんなことはないはず。だって、アニメでは教師たちが主人公の中にある光魔法の素養を見出すのだもの。
「ははっ! この世界にあるのは魔導具だけだ。魔法なんてものはない」
「そんなはずはないわっ! あるのでしょう? 学園のカリキュラムに魔法の授業が!」
そうよっ! そこで私はロバート様に魔法の手腕を褒められるのだもの!
「ないよっ! 異世界転生者は本当に魔法とやらが好きだな。記録に残っている異世界転生者の半数が自称・魔法の名手だったぞ!」
「そんな……そんなはずは」
「疑ってもいいが、キミ自身、魔法なんて使えないのだろう? それとも使えるのか、光魔法とやら?」
「それは……それを教えるのが教師の仕事でしょっ!?」
「ははっ! これはこれは。キミ自身が世界で唯一の光魔法の使い手と言っていたのに、使い方は誰かに教わるのか。面白い話だ」
「あっ……それは」
「まあ、良い。悪いがキミのそれは妄言だ。キミ詩人にの中にある前世の記憶まで否定するわけではないが、少なくともキミが知っている世界と、この世界は全く違う」
「嘘……嘘よっ! ここは春キミの世界だもの! ロバート様だって居たもの!」
「それで? 他の人物は見かけたかい?」
「他の……」
春キミにはロバート様以外にも攻略対象者がいる。公爵令息に騎士団長の息子、それに魔術師団長の息子……その誰かを見かけた?
公爵令息はロバート様と同じ上位クラスだったけれど、騎士団長の息子と魔術師団長の息子は下位クラスだった……あれ? 見てない?
「気づいたようだね。キミの記憶と合致している点があったようだけれど、それはただの偶然だ。キミはこの世界の主人公なんかじゃない。ただの一般人だ」
嘘……嘘よ。そう思うけれど、目の前の教師の言葉を否定することが私にはできない。
確かに私は光魔法を使うことはできないし、世界樹だって実際に見たわけではない。
アニメでは王立学園から見える距離に世界樹があったけれど、見かけていない時点でおかしいと思わなければならなかった。
主人公でもない、ただの男爵令嬢で何の権力もない私は、これからどうやってこの世界で生きていけばいいの?
そのあとは必死に勉強をしてみたけれど、前世でもまじめに勉強をしている人たちをバカにして生きてきたから、勉強の仕方なんてわからない。
お願い……誰か助けて……こんなことになるなら、転生なんてしたくなかった。




