89 領地と復学(メアリー編)
結局あの後、お父様は私の言うことを信じてくれずに自室へと閉じ込められてしまった。
扉の前には使用人が常時いて、2階にあるから窓からの脱出はできない……まあ、窓から脱出しても家から外に出るには玄関のそばを通らなければならないから、カーテンとかを使って降りても無駄だしね。
「ふん、しおらしくしておるようだな」
「お父様! ここから早く出してください! 私はロバート様に会わなければならないのです!」
「まだバカなことを言っているのか。……だが、無駄なことだ。第二王子殿下は長期の休学へと入った」
「……休学?」
おかしい。春キミではロバート様が休学になるなんてストーリーはなかったはず。
「ああ、入学式の直後に問題を起こされたからな」
「そんな……」
「嘆く必要はない。お前も当分は休学だからな」
「……えっ?」
「当たり前だろう。王家から直々に命令が来た。王族の恋人を詐称するなど言語道断だとな」
「詐称だなんて……」
「第二王子殿下に直接聞いてみたそうだ。第二王子殿下は、お前のことなど知らないと答えたそうだぞ」
それは……だって、私とロバート様はまだ出会ってないもの。
でも、私と出会えば惹かれるはずなのよ! だって、私は主人公だもの!
「王家の代理人と話し合って、お前は第二王子殿下が高等校舎に移られるまで休学させることにした。数日後に領地へと連れて行くから準備しておけ」
「休学!? それに領地へなんて!」
「王都へ王立学園に通わせるために来たのだ。学園に通えないなら、滞在する意味がない」
「……そんな」
抵抗したけれど、この世界では貴族令嬢としての生活しか知らず、王宮の場所さえわからない私にはお父様の意見に反対することができなかった。
それに、もしも王宮に行ってロバート様に否定されてしまったら、私は何のために前世の記憶を持ってこの世界にいるのかわらかなくなってしまう。
「お前には2つの選択肢がある」
領地にも慣れてきたころ、お父様に執務室へと呼び出されて唐突に宣言された。
「……選択肢、ですか?」
「ああ。実は先ごろ、第二王子殿下がまた問題を起こしたようでな、王立学園にはもう通わないそうだ」
「ロバート様がっ!?」
「不敬だから、第二王子殿下を名前で呼ぶのはやめなさい。……それはそうと、お前が王立学園を休学する意味がなくなったのだ。休学は第二王子殿下と接触しないようにするための措置だったからな」
「はあ」
「で、どうする?」
「どうする、とは?」
「王立学園に復学するか?」
復学? 私を無理やり領地へと連れてきて、今さらになってそんなことを言うの?
「…………」
「理解していないようだが、戻ったところで第二王子殿下は王立学園にいないし、罰を受けている最中なので面会することも不可能だ」
「だったら!」
だったら、王立学園になんて通う意味はない! だって、私は主人公よ! ロバート様と幸せになることが使命なの!
「だが、王立学園を卒業しないとなると貴族としての資格はなくなる」
「……それは」
私にはわからない。この世界では貴族として生まれ育った記憶しかないし、前世のように一般市民としての生活がどんなものになるのか。
でも、それでもロバート様がいない王立学園に通うなんて意味があるの? 男爵令嬢としての教育だって、面倒なだけでよかったと思ったことなんてないのに。
「どちらにしても、お前が第二王子殿下と一緒になることなんてないがな。王立学園を卒業したら、こちらで用意した相手と結婚してもらう」
「はっ!? 横暴です!」
「何を言っている。親が決めた相手と結婚するなど、貴族ではなく平民でも常識だぞ。王立学園を卒業したなら男爵家、王立学園をやめるなら商家だ。好きに選べ」
なによそれ! 子供の結婚相手を勝手に決めるなんて人権侵害よ!
前世の記憶であるわたしはそう思うけれど、確かに今世の私の知識では平民でも貴族でも結婚相手を親が決めるというのは当たり前のことだ。
「王立学園に……戻ります」
「わかった。手続きをしておくが、もう騒ぎを起こさないようにな。王立学園では、色々と言われるだろうが、自分のやらかしたことだ。黙って耐えるんだぞ」
親とは思えないセリフ。普通だったら、子供のことをかばうもんじゃないの!?
お父様への怒りを胸に抱きながら、私は執務室を後にした。




