82 私の正体は私
「ローズマリー嬢、卒業パーティーのエスコートをさせていただけませんか?」
会話がひと段落した時に、デビット様が唐突に質問してきた。
前世の感覚だとデートの延長線上にある言葉だけれど、この世界では節目節目にあるパーティーでのエスコートというの男女関係において重要なことだ。
内輪のパーティーとかならともかく、卒業パーティーなどの公式行事などでエスコートをするのは将来を誓い合った仲と宣言するに近い。
「本国の許可は下りたのですか?」
デビット様はブラウン皇国の第四皇子。テイラー王国には留学生としてやってきているのであって、永住の許可が下りたわけではない。
これまでのデートやらなんやらは学生同士のお遊びとして目こぼしされていても、公式行事のエスコートとなれば両国間の問題となる。
「ああ。夏季休暇中に皇国に戻って父上や兄上と話し合ったよ。結論から言うと、グラース公爵家に婿入りすること限定で皇位継承権の放棄とテイラー王国への移住が許可された」
「それはそれは」
「ははっ。まあ、ブラウン皇国にとってもグラース公爵家の影響は大きいということさ」
「テイラー王国には王女がいないので、家格上は我が家が最上級になりますが、他国の王女様に婿入りしたほうが実入りは良いのでは?」
「その辺は私の努力が実ったというところだな。ローズマリー嬢のアドバイスを参考に、ブラウン皇国でも本を普及した結果、他国の中枢に入り込むよりもグラース公爵家とのつながりを持った方が価値が高いとのことだ」
「ふふ。もしかして、皇帝陛下や皇太子殿下も本好きになったのですか?」
「父上は意外にも恋物語が好きらしい。兄上は冒険ものを仕入れてほしいとさ」
茶化すように言ったのだけれど、本当に皇帝や皇太子が本好きになっているとは。思わず絶句してしまったわ。
「で、エスコートをさせてもらえるかな?」
「はい、よろこんで」
これまでも、私の婚約者、引いては伴侶について考えてきたけれど、テイラー王国の貴族には私の婿に慣れるという人はいなかったのよね。
……いいえ、これは言い訳ね。私はデビット様と会って、交流するうちにデビット様との未来しか考えられなくなっていった。
徐々にデビット様が仲を深めていってくれたというのもあるけれど、公爵家の事業、そして領民との交流なんかにも積極的だったのが大きかったのかな?
「……ほ、本当か!?」
「はい。私も卒業パーティーにエスコートしてもらうならデビット様がいいと思っていました」
「や……やったー!」
「おめでとうございます、デビット様」
「おめでとうございます! ローズマリー様!」
「おめでとうございます、ローズマリー様」
ケリー様、マリア、グレイスがそれぞれお祝いを言ってくれる。まあ、普通に同じテーブルで会話しているのだから、筒抜けよね。
「ふふ、ありがとう」
「こんなに良い日は人生で初めてかもしれない」
前世の記憶を取り戻してから色々と考えてきたけれど、やっぱり私らしく生きるのが大事よね。
結局、この世界がどんな世界で、私が誰だったのかはわからず仕舞いだけれど、それでよかったのかもしれない。
これからも私は私らしく、私だけの幸せを求めて生きていくべきよね!
「デビット様、これからもよろしくお願いしますわ」
「ああ、こちらこそローズマリー嬢に愛想を尽かされないように努力していくよ」
自分が主人公だから、悪役令嬢だからと、シナリオ通りに生きたり、シナリオを覆したりするのは面白いかもしれない。
でも、幸せに生きるのにシナリオなんていらない。




