08 自称主人公の末路とこれから
あれから、お父様の調査がすぐにでも入り、リサと名乗る少女は公爵家の屋敷から追放された。
どうも私だけでなくお母様に対しても邪魔者、出ていけなどと言っていたらしく、激怒したお父様の手により速やかに排除されたってわけ。
前世の記憶を持っている身としては、彼女の行いを教訓にしないといけない。
思い込みや知識不足で間違ったストーリーを突き進んでもハッピーエンドにはたどり着かないし、この世界にいるのは生きている人間だ。
物語の中だと思い込んで人をないがしろにすれば疎まれるし、前世のようにきちんと相手の感情や思考を読みながら生きなければならない。
読み取ったものが間違っていても、相手のことを考えて行動しているということが理解されれば、軋轢は少なくなるからね。
「じゃあ、屋敷の中は静かになったのね」
「はい。それに合わせて屋敷内の人事異動も行っているので少し忙しくはなっていますが、お嬢様が気にすることではありません」
「まあ、そちらは人事を考えるお父様や屋敷内の采配をとるお母様が考えることね」
別に私としても喧嘩を売ってこなければ普通に使用人として対応していただろうし、本当に口は禍の元ね。
「ですので、お嬢様は好きに動いてください」
「ええ、そうするわ。まずはエイミーが見つけてくれた辞書についてね。お父様には伝えてもらえた?」
「はい、こちらの薄い辞書は公爵家の寄子が献上してきたものだそうです。領地に生えている植物から作った紙と、少ない労力で大量の本を作れるようにした印刷機の見本だそうで」
「素晴らしいわっ!」
「……私には素晴らしさがわかりませんが、お嬢様が嬉しいのなら何よりです」
素晴らしいわよ! 公爵家の寄子が紙や印刷機を作れるのなら、私が原稿を作れば本が量産できるということだもの!
今は神話や職業本しか本を作ってはダメという風潮だけれど、公爵令嬢……それも次期公爵が新しい流行として今までにない本を作れば、それに続く人が出てくるはず。
まずは既存の物語を集めつつ、私が原稿を書いて、それを広めるところからだから、かなり時間はかかるだろうけどね。
「この本を献上してきた貴族と会いたいわね」
「旦那様に相談なさいますか?」
「そうね。お父様の許可を取らないと、流石にマズいわよね」
意識としては大人だけれど、今の私は5歳児なのだし、親の許可もなく知らない人に合うことなんてできない。
そもそも反抗的なメイドがいるということをお父様に報告した際に、一発で信用されなかった理由も子供だからだろう。
前世のわたしだって5歳児が自分を追い出そうとしている大人がいる、と言い出したとして、それを全面的に信じることはなかっただろう。
「エイミーはお父様に報告してきてくれる? 私はここで本をまとめているから」
「かしこまりました。先日と同じようにメイドと侍従を連れてきますので、少しお待ちください」
「ええ、大人しくしているから大丈夫よ」
この書斎を見つけてから半月ほどが経ったけれど、まだまだ全書籍の網羅には遠い。
とはいえ、終わりは見えてきたので、今は収蔵されている書籍の傾向も並行してまとめはじめている。
職業本なら分野の傾向、中身が被っている本がないか、神話なら同じ神様を集めつつ、表現や書いてあることにゆらぎがないかどうか。
オタクとしての手慰みだったけれど、意外にもこの世界の情報収集能力が見えてきて面白い。
職業本に関しては王城に勤めている人たちが書くことが多いということで、表現的なゆらぎは少ないけれど、書く人によって内容の詳細度がかなり違う。
逆に神話に関しては神殿で書かれたもの、教会で書かれたもの、民間で書かれたものによって、かなり内容が違う。
この世界の神殿は神様の像……いわゆる御神体が祀られている場所で、教会は神の教えを人々に教える場所となっている。
基本的に同じ神様を信じていれば教えに違いはないと聞いたけれど、神殿が書いた本は古めかしい表現が多く、教会が書いた本はわかりやすいように簡略化されていることが多い。
まあ、人に教えるんだから、わかりやすいご利益がないといけないし、その辺は神殿側も許容しているだろう。
面白いのが民間の神学者が書いた本で、既存の神様の権能が及ばない範囲で起きた奇跡について、こんな神様がいるはずだと新しく神様を提言しているものが多い。
神殿や教会では善神ばかりが取り上げられいるけれど、民間の神学者は悪神も取り上げていて、前世の妖怪や怪異のような神様もいて面白い。
洪水ひとつとっても、神殿や教会は神様からの試練と書いてあるけれど、民間の神学者は人間の傲慢さに怒った悪神の罰などと書いてある。
「うーん、この辺を上手く使って物語を作るのが入りやすいかなぁ」




