78 乱入者の正体
「ああーー!! やっと見つけた! デビット様!」
そんな声がクラス中に響き渡った瞬間、クラスメイト全員がびくっとした。
そりゃそうだろう。デビット様は隣国であるブラウン皇国の第四皇子であり、本人に許可をもらってない限り殿下と敬称をつけるのが当然だからだ。
しかも、声の出所を探ってみると、教室の出入り口……私たちとは明らかに年齢の違う女性の姿があった。
「……どちら様かな? 私は見たこともないし、話しかけたこともないけれど」
ああ、デビット様の対応から、この女性が敬称を外せる仲じゃないのがわかった。
「あたしはシーラ。デビット様の恋人よ!」
「……は?」
「だから~、あたしはデビット様と恋人になるの。で、デビット様は国王様になって幸せに暮らすの!」
クラスにいる全員の頭の上にハテナマークが見えるけれど、彼女の言っていることは支離滅裂で意味不明だ。
おそらくは転生者なのだろうけれど、どうして相手の心情も過程もすっ飛ばして結果だけを得ようとするのかしら?
「名前も知らないような人と恋人になる趣味はないよ。気持ち悪いこと言わないでくれ」
「またまた~、照れちゃって。あたしと結婚すれば国王様になれるんだよ?」
「勘違いするな。私は皇位を望んだことはない。それと、国王とは何のことだ? 貴女はどこかの国の王族なのか?」
デビット様はブラウン皇国の第四皇子。もしも皇位を継ぐのなら国王ではなく、皇帝となるのだけれど……目の前の女性はわかっていなさそうね。
「あたしが? あたしは平民だよ。王族なのはデビット様の方でしょ?」
「私はブラウン皇国の第四皇子だ。王族ではなく皇族だ。それと、誰の許可を得て勝手に名前で呼んでいるのだ?」
相手の素性がわからないうちは突っ込まなかったけれど、流石に平民とわかったのなら突っ込むわよね。
公爵令嬢である私はもちろん、既に学園にいない第二王子ですらデビット第四皇子殿下と呼んでいたのに、たかが平民が勝手に様付で呼ぶなんて不敬どころの話じゃないわ。
「何が違うの? それに、あたしたちは恋人同士になって結婚するんだよ。呼び方なんて些細な事じゃん」
「話にならないな」
やれやれといった様子のデビット様に対して、これだけ言っても詰め寄ってこようとする彼女。
というか、この話、聞き覚えがあるわね。タイトルは忘れてしまったけれど、前世で読んだ小説ね。
デビット様の名前を聞いたときに真っ先に思い出した話で、平民の少女が隣国の王子であるデビット・ジョーンズに見初められるというもの。
ま、ヒーローの名前こそ合っているけれど、国名や傍にいる人の名前など何もかもが違うから、この世界がその話の中というわけではないけれどね。
「何をやっている!」
「すみません。お待たせしました、デビット様」
明らかに年齢が上の彼女に対して、こちらは貴族の子供ばかりで対処のしようがない……と思っていたら、ケリー様が教師を連れてきてくれた。
途中から姿が見えなくなったと思っていたけれど、対処が難しいと判断して教師を呼びに行ってくれていたのね。
「君は貴族ではないな。なぜ、ここにいる。平民は貴族専用の棟には立ち入り禁止だと伝えてあるが?」
「確かに今は平民だけれど、あたしはいずれ王妃となるのよ!」
「……は!?」
あらあら、教師もフリーズしてしまったわ。ま、そりゃそうよね。この国だけでなく周辺国でも平民が王族になったことなんてない。
裕福な商人の一部が貴族に嫁入り、婿入りすることはあるけれど、それでも男爵や子爵がせいぜい。
高位貴族、ましてや平民が国のトップに入り込むなんて誰も考えつかないことなのよ。
「ね! デビット様」
「……デビット第四皇子殿下?」
「そんな事実はないし、そんな女は知らない。そもそも、勝手に名前で呼ばないくれ。気持ち悪い」
デビット様は嫌だという表情を隠しもせずに言い放つ。
「とにかく、事情を聞く! 君はこちらに来なさい。デビット第四皇子殿下は、授業を受けてください。必要があれば呼び出します」
「ちょっと、引っ張らないでよ!」
「わかりました。必要があれば協力させていただきます」
教師に引きずられていく最中もギャーギャーと騒いでいたけれど、その声もどんどんと小さくなっていく。
「騒がせたようだな。みんな、教師の言うように授業の準備をしよう」
別にデビット様が騒がせたわけではないけれど、クラス中の全員が成り行きを見守っていたから、仕方なくデビット様が声をかける。
「はあ、いったい何だったんだ」
「変な人に絡まれてしまいましたね」
「まったくだ。……少しだけれどローズマリー嬢の気持ちがわかった気がするよ」




