77 学園再開
「お久しぶりです、グラース公爵令嬢」
「ふふ、久しぶりね。休みは程よく過ごせた?」
「はい。……ところで、新しい本の販売はいつ始まりますの?」
「あら? もう告知がいったのね。秋口に予約を開始して、冬の間に配送が始まるわよ」
夏季休暇が終わって王立学園へとやってくると、クラスの人たちが話しかけてくる。
学園ではグレイスとマリアが一番仲が良いけれど、クラスの人とも別に仲が悪いというわけではないのよね。
「ローズマリー様、大人気ですね」
「ふふ。人気なのは私というよりも本、という気がするけれどね」
公爵家とのつながりを求めるというのが本当だろうけれど、同級生はまだまだ子供だから自分の欲求に素直だ。
領民が口にする農作物よりも自分が読みたい本の方が優先順位が高いのだろう。
「やあ、ローズマリー嬢。おはよう」
「あら、おはようございます。デビット様」
クラスメイトと話していると、デビット様が話しかけてきた。
「……あら? 今、ローズマリー嬢と」
「グラース公爵令嬢もデビット様と……」
夏季休暇前とは呼び方が変わっているので、クラスの人たちが動揺しているわね。
「学園も楽しいけれどね、やはりグラース公爵家が懐かしく思ってしまうよ」
「ふふ。そういっていただけると、当家の使用人たちも誇らしいと思いますわ」
「……あ、あの~。グラース公爵令嬢とデビット第四皇子殿下は休暇中に公爵家で一緒だったのですか?」
「ええ。デビット様とケリー様、それにグレイスとマリアを誘って公爵家で休暇を過ごしたのよ」
あまりにもデビット様との距離が近かったからか、おずおずとクラスメイトが話しかけてきた。
「なるほど」
クラスメイトの反応は、理解したと言いたげに頷くものと、嫉妬したかのように私を睨みつけてくるものに二分されている。
婚約者もいない侯爵令嬢が隣国の第四皇子を個人的に領地に招いたのならスキャンダルだが、他にも人がいたのなら交流の一環でしかない。
それでも嫉妬したかのように睨みつけている人たちは、個人的にデビット様を狙っていたのかも……私を睨んでいる暇があるならアプローチすればいいのに。
「うむ。ブラウン皇国でもグラース公爵家の本は人気だからな。どんな種類のものがあるのか、ブラウン皇国にも輸出できるのか、色々と勉強させてもらったのだ」
「……そんな。学園内でお話しすればいいのに」
「おや、そんなに変なことかな? テイラー王国では本を主産業にしているのはグラース公爵家だけ。商品を把握するために領地を訪れるのは当たり前だろう?」
睨みつけていたうちの1人がボソッとつぶやいたのをデビット様は聞き逃さなかったようで、その令嬢……確か伯爵令嬢だったかしら? ……を問い詰め始めたわ。
「そ、そんなつもりじゃ……」
「それに、誰が聞いているかわからない学園内で国をまたいだ輸出入の話をするわけないだろう? 君はもう少し機密という言葉を学んだ方が良いぞ」
口をはさんだ伯爵令嬢はタジタジといった雰囲気で、こちらに助けを求めるかのような目つきで見てくるけれど、私は無視したわ。
そもそも何も知らないくせに口をはさんできたのが間違いだし、伯爵令嬢という身分なのに公爵令嬢である私と第四皇子であるデビット様の双方に文句をつけたのだから、これくらいの責めは受けてもらわなければ。
「ま、適当に口をはさんだだけだろうから、これ以上は言わないが、自分勝手な思い込みで他人に文句を言うのはやめた方が良いぞ」
「……はい、申し訳ありませんでした」
デビット様の説教? が終わったので、私の周りに集まっていた人は解散していった。
文句をつけてきた伯爵令嬢は、去り際に私を睨みつけてきたから、自分の何が悪かったのかを理解していないのだろうなぁ。
ま、彼女の家とは付き合いらしい付き合いもないからいいか。どうせ王立学園を卒業したら、顔を合わせることもないしね。
「ローズマリー様は何も言いませんでしたね」
「あの失礼な伯爵令嬢に対して? 子供らしい嫉妬ってだけだし、本人も何が影響するかなんて考えていないでしょ? そんなの気にするだけ時間の無駄よ。目に余るようなら、今後の取引を考え直せば済む話だし」
高位貴族ならともかく、伯爵令嬢だと自分の発言で家が損害を被るなんて理解もしてないし、実感もないでしょう。
そんな子供の戯言にいちいち目くじらを立てるのは高位貴族としてあり得ないし、気にする要素がない。
ただ、実害が出るようだったら警告の意味も込めて、伯爵家に対して何らかのペナルティを与えなければならないけれどね。




