71 見抜かれた恋心(デビット視点)
「デビット第四皇子殿下はローズマリー様のことが好きなんですよね?」
「はっ!? な、なにを」
私はデビット・ジョーンズ。ブラウン皇国の第四皇子であり、現在はテイラー王国に留学している身だ。
夏季休暇を利用してグラース公爵家へと逗留させてもらっているが、街遊びをしている最中にオルセン侯爵令嬢から急に話しかけられた。
ローズマリー嬢は店主と気さくに話しているので、こちらの会話には気づいていないだろうけれど、急に核心に迫るような質問をされると困る。
「……わかるか?」
「わかります。私やマリアを見る目とは明らかに違いますから」
「そうか…………そうか」
自分でも他の人間を見る目とローズマリー嬢を見る目が違うのは自覚していたが、他人に指摘されるほどだとは思わなかった。
「どんなところを好きになったのですか?」
好奇心に駆られたような質問……普通ならそう思えるが、オルセン侯爵令嬢の目を見れば真剣な質問だと理解できる。
おそらくは友人であるローズマリー嬢に対して、軽い気持ちで近づいてほしくないのだろう……私は深く関わっていないが、テイラー王国の王子の件もあるしな。
「……そうだな。私に対して物おじせず、かといって期待しないところかな」
これでも第四皇子という身分をいただいている身だ。ほとんどの人間は、その地位を知れば近づくのも恐れ多いという雰囲気で、気軽に話そうなどとしない。
目の前にいるオルセン侯爵令嬢、それにジョンと話しているウェザリー伯爵令嬢も、私と初めて会った時には碌に会話もできなかった。
それに引き換え、ローズマリー嬢は公爵令嬢と身分が高いこともあるのだろうが、私に対して自然体に接してくれた。
「……期待、ですか?」
「ああ。私にすり寄ってくるご令嬢というのは基本的に皇子妃を狙っているんだよ。口に出す者もいれば、心の内で思っているだけの者もいるがな」
ブラウン皇国にいたころは、数多くの令嬢と顔合わせをさせられたが、積極的に私の傍に居ようとする令嬢はすべて皇子妃の立場を狙ったいた者だった。
もちろん、表面上はそうと悟らせない者もいたが、皇子としての権力で少し探りを入れれば、本人、あるいは家族が立場を狙っているのは明白だった。
「デビット第四皇子殿下は皇子ですので、それは仕方がないのでは?」
「はっ! 皇帝にもなれず臣籍降下するしかないのにか? 皇子妃になんてなれるわけがないのに
、その立場を望んでいるものとなど仲良くなれるわけがない」
テイラー王国ならば魔力量さえあれば王になれるだろうが、ブラウン皇国では年齢の差を埋めるのは容易ではない。
特に父はすでに引退を考えていて、長兄である第一皇子は成人済み……私が学園を卒業するまでの間に次の皇帝になっていることだろう。
兄の子供が成人するまでは皇弟という立場に甘んじられるが、その後は臣籍降下するしかない。
「ローズマリー嬢はそういったことがわかっている。私が第四皇子だと知っても、皇子としての権力を行使する事よりも、私の力だけでできることだけを求めてくる」
本の輸入の話をした時も、皇子としての権力を使って法律を変えろ、因習を変えろと言われると思っていたが、ローズマリー嬢が求めてきたのはそれ以外の方法。
臣下に代理輸入をさせる、私自身が商会を設立して輸入する……どちらも立場や金銭は必要だが、皇子でなくても可能な提案だった。
「では、今でもローズマリー様のそういった点を?」
「いや、きっかけはそれだが、今はもう少し進んでいる。ローズマリー嬢は立場で人を見ない。能力や人柄、そういった自分で獲得してきたものに価値を見る」
ローズマリー嬢は王族や貴族が嫌いなわけではない。それに相応しい能力を持たず、立場を理解しない人柄を嫌うのだ。
だから平民に貴族と同等の能力や人柄は求めない……目の前での会話を見てもそれは証明できる。
いずれ皇子としての立場を捨て、ただの貴族にならなければならない私にとって、それは救いなのだ。
「……ふう。ま、合格点ですわね」
「合格点?」
「はい。ローズマリー様のことを公爵令嬢として、あるいは本を作成する人間として見ていたら、ローズマリー様から引き離すつもりでした」
「……引き離すって」
「だってそうでしょう? ローズマリー様の魅力は立場でも功績でもありませんもの。マリアと話し合って、そう決めていました。……しかし、ローズマリー様の人柄に惚れたのなら邪魔をするのは野暮ってものです」
「応援……してくれるのか?」
「応援はしません。恋なんて、周りが囃し立てれば囃し立てるほど失敗しますから。ただ、邪魔はしません」
「……自分の実力で振り向かせろということか」
ま、邪魔されないだけマシと考えたほうがいいだろうな。




