70 街遊び
「お、姫様。久しぶりだね~」
「あらあら。お嬢様、おかえり。なかなか来ないから、このまま王都に行ってしまうのかと思ったよ」
今日はみんなを連れて屋敷の傍にある街へとやってきている。グラース公爵家の屋敷を含んで街壁が築かれているから、直轄の街って感じかな?
街の人は私のことをグラース公爵家の後継者として認識していて、街へとやってくると「姫様」「お嬢様」と呼んでくれる。
「今回の帰省はお客様を連れてきてたから忙しかったの! 別にみんなに会いたくなかったわけじゃないからね」
「はっはっは。いやいや、姫様は領主になる勉強をしているんだ。忙しいのはわかっていたさ」
「そうそう。あたしらはいつもここに居るんだから、お嬢様が来たい時に来てくれりゃあいいんだよ」
「もう、そんなこと言って! 私はみんなのために領主になるのを頑張ってるんだから! みんなに会えないなら意味ないんだよ!」
お父様やお母様を含む貴族に相対しているときは丁寧な口調で話す私だけれど、流石に領民に対しては砕けた口調で話すようにしている。
取り繕う必要がない、というのも理由だけれど、それ以上に威圧感を与えてしまうからね。
貴族らしい話し方をするときは、領の法律を破った人を罰さなければならない時だけで十分だ。
「ところで姫様。お客さんは放置で良いのかい?」
「あ、忘れてた。……デビット様、ケリー様。それにグレイスとマリアも。こちらにいらしてください」
「私たちには、こちらの話し方なのだな」
「デビット様。いくら私でも立場によって言葉遣いくらい変えますよ?」
自国の王子からの求婚まがいなことを、無下に扱った私だけれど、流石に領民と同じようにお客様に接するのが不味いということくらいはわかる。
というか、王子の件は王子たちの自爆みたいなものだから私は悪くない。
「しかし、護衛が騎士1人だけで大丈夫なのか?」
「護衛? 一緒に来ている騎士は休暇兼荷物持ちなので、護衛ではないですよ?」
「「「「はっ!?」」」」
「いやいや、他の街ならともかく、ここはグラース公爵家が治めている街ですよ? 歩き回るのに護衛なんて必要ありませんよ」
公爵領の中でも他の村や町、街ならこんなことはできないけれど、直轄地でもあるこの街なら私は自由に歩ける。
というか、領主一家なのに自由に街中を歩けないなんてありえないでしょ! ……って思ってたけど、どうやら違うらしい。
私は生まれた時からこの環境だから不思議には思わなかったけれど、デビット様やケリー様だけでなく、グレイスとマリアも驚いているからテイラー王国でも普通のことじゃないみたい。
「皆様。この街では出入りに制限がかかっていますし、領民は子供の時から領主一家について教育されています。もしもお嬢様を含む領主一家に害をなそうとする人物が現れれば、領民が真っ先に捕らえてくれるでしょう」
「おお、そうさ。姫様たちを傷つけようとする輩なんざ、俺たちがとっちめてやるよ!」
「そうそう。あたしらが、こうやって平和に暮らせるのはお嬢様たちのおかげなんだからね」
一緒に街へとやってきてくれていた侍女の言葉に、街の人たちも答えてくれる。
ちなみに、騎士は1人しかついてきていないけれど、街遊びに慣れていないみんなのために侍女やメイドがそれぞれについている。
私だけで来た時には休暇の人と一緒に来るのだけれど、流石にお客様と一緒だとそういうわけにもいかないものね。
「ふむ、見ていてハラハラするが、これが普通なら言うことはないな」
「お嬢様は良いですが、他の方は町の人も見慣れていないので、使用人から離れないようにお願いします」
「そうね。私は認識されているけれど、流石にデビット様たちは知らない人ばかりだから、公爵家の使用人から離れない方がいいわね」
「いえ、お嬢様も今回は極力離れないでください」
「危険がある?」
「お客様を放置するのは良くないということです」
なるほど、正論だ。街にやってくると、割とパーッといろんなところに行ってしまう私だけれど、今回ばかりはみんなに合わせて歩いた方がいいみたいね。
「では、みんな。街を見ていきましょうか。本はありませんけれど、いろんな食べ物があるんですよ」
私はしなかったけれど、グラース公爵領といえば本だけでなく料理でも有名らしい。
確かにわたしとしての意識を取り戻してからも、料理に関する不満を持ったことはないし、前世で食べたような食べ物が多いのよね。
ま、これが原因でこの世界が単なる異世界ではなくて、前世で読んだ小説の中なのかと思ったんだけれど。




