69 紙芝居の評価
「その様子だと、紙芝居とやらは上手くいったようだな」
お客様が来ている機関だけれど、今日は紙芝居に関する打ち合わせがあるので家族だけで夕食を取っている。
「はい、お父様。すでに担当から報告がいっていると思いますが、領民からの反応は上々で、読み聞かせをしていた使用人もいつもよりもやりやすかったようです」
「私も練習の時に見せてもらったけれど、あれは面白いわよね」
ニコニコとしながら、お母様がそう言う。確かに使用人たちが練習をしていた時に、お母様は見学に来ていたわね。
「ほう……ローズマリー。紙芝居は本のように国中に販売するのかい?」
「いいえ、お父様。紙芝居を販売するのには問題点がいくつもあるので、販売は見送った方がいいでしょう」
「問題点?」
「まず第一に単純に量産するのが難しいことです。スペンサー子爵からは絵も印刷できると報告されていますが、それは本と同じ大きさの話です」
「……紙芝居は確か本の4倍くらいの大きさだったな」
「第二に紙芝居は色を付けることが前提です。スペンサー子爵からは黒以外のインクも開発したと聞いていますが、同じ紙に様々な色を付けられるかは未確認です」
「……確かに、あの絵が白黒だったら面白味は半減ね」
「第三に紙芝居の読み聞かせは特殊だということです。読み聞かせに慣れている使用人でも、紙芝居の読み聞かせには、かなりの量の練習が必要でした」
「「…………」」
「これらのことから、紙芝居を販売するのは難しいと思いますわ。もしも販売したとしたら、グラース公爵家に読み手を放出するように依頼が来たり、読み聞かせのやり方を教えてほしいと言われるでしょう」
印刷の技術的な問題なら、時間や人手をかければ解決するかもしれない。
けれど、読み聞かせに関しては別。技術を習得するのはグラース公爵家とは関係のない人たちで、そんな人たちに懇切丁寧に指導している余裕はグラース公爵家にはない。
というよりも、そんな余裕があるのなら本を増やす方が急務なのよね。
「ふむ……まあ、紙芝居はそもそもローズマリーが持ってきた絵が、他の人に受け入れられるかどうかの試験だったから、販売できなくても損はないか」
「あなた。損はないかもしれないけど、こんなに素晴らしいものを今回だけで終わらせるなんてもったいないわよ」
「そうです、お母様。もったいないので、この直轄領では普及させていきたいと思います。まずは使用人が行っている読み聞かせを紙芝居に変更。平民の中で興味を持った人が出てきたら、その人に預けるのもいいでしょう」
「預ける?」
お父様が訝しげに聞いてくる。
「はい。グラース公爵家の使用人が派遣できるのは直轄領の中でも、この街だけ。他の村や町に行ってくれる平民に紙芝居を託すのです」
「……ふむ、確かにいい手だな」
「あとは、今回のように他領や他国からのお客様が来た時に、グラース公爵家の事業の一環として紙芝居を上演するのもよいでしょう」
「「紙芝居を上演」」
「その際は、もう少し大きなものにする必要がありますね。お客様にはテーブルに座っていただいて、少し離れたところから見ていただく」
試作の紙芝居は手で持てるサイズに抑えたけれど、離れたところから観るのなら、額の中に収めるような、もっと大きなものにしたほうがいいだろう。
音の出ない軽食やお菓子、それにお茶も出して……うん、見えてきた。
「……そうだな。他の領では劇や歌を披露しているところもあるしな」
「あとは、絵本を販売します」
「「絵本?」」
「はい。ページの片側に文字、もう一方に絵を描いた本です。絵と文字が一緒に見られるので、単語と絵を結び付けやすくなると思います」
「……なるほど。親が絵を見せながら、この単語はこの絵を指している、と教えるわけか」
「それもありますが、子供の方から聞いてきますよ。絵を指して、これは何? って。子供は好奇心旺盛ですから」
そう言うと、お父様とお母様は疑問を覚えたような表情をしだしたけれど、そもそも子供は知らないことを知ることに積極的だ。
結局のところ、詰込みのような教育や出来ないことを責める大人に辟易とするだけで、図鑑や写真集を長時間眺めている子供も前世では少なくなかった。
「こちらも、まずはお試しで作ってみます。グレイスが公爵家に仕えてくれる、という段階になったらスペンサー子爵と連携して大量生産しましょう」
「他の絵師に頼むのじゃダメなの?」
「お母様。スペンサー子爵から送られてきた試作は見たでしょう? あれで、販売できると思いますか?」
「……そうね。さすがにアレで販売しては本自体の評価が下がってしまうわね」
お母様はスペンサー子爵が送ってくれた試作を思い出したのか、重いため息をつく。
「こちらでも似たような絵を描ける絵師を探しますが、お父様やお母様も探しておいてください」
「うむ。作家の方と同じだね。絵も描く人が増えれば増えるほど、バリエーションが増える」
「そうね。様々な絵を楽しむためにはオルセン侯爵令嬢だけに頼るのではダメね」




