67 読み聞かせ
「本日の読み聞かせは、ローズマリーお嬢様が作ってくれた、こちらを使いますよ」
「なにそれなにそれ!?」
グラース公爵家では本のすばらしさを伝えるためと、グラース公爵家の事業を理解してもらうために定期的に領民に本の読み聞かせをしている。
これまでは担当する使用人が本を手に持って、ただ単に読んであげるという形式だったのだけれど、グレイスのおかげでもっとわかりやすい形に変えることができた。
「質問の前にローズマリーお嬢様に感謝を。そちらにいらっしゃいますからね」
「「「「お嬢様、ありがとうございます」」」」
「ふふ、みんな楽しんでね」
領民たちが、こちらを見てお礼を言ってきたので、手を振りながら応える。ま、これも領主一族の役目よね。
「ローズマリー嬢、あれがお茶会でオルセン侯爵令嬢に頼んでいたものかい?」
「はい、デビット様。あれこそがグレイスの絵で完成した、紙芝居です。本の挿絵にグレイスの絵を使うことに家族が懐疑的でしたので、こちらで領民の評判をみることにしたのです」
私としてはグレイスの絵を本に入れれば人気が上がると思っているが、絵といえば精緻なものと思い込んでいる家族は、そうは思えなかったようだ。
物語の本で事業を成功させている私の判断を信用できないのかっ!? と思うかもしれないけど、絵を差し込むためには文章に使ってる印刷機を止めて、絵を印刷しなければならない。
印刷が進んでいない原稿が山と積んであるのに、それを止めて需要があるかわからない絵を印刷するのはリスクが高い……ま、言われればそうよね。
「ローズマリー様、本当に大丈夫なのでしょうか?」
「グレイス、私の判断を信用しなさい」
ここはグラース公爵家が持っている公民館のテラスルームで、私とデビット様、それにグレイスは少し離れた庭でお茶をいただいている。
紙芝居を持った使用人とそれを囲むように読み聞かせを待っている領民はテラスルームの中にいるので、大きな声を出さなければ邪魔になることはない。
ま、領民たちはさっき私に大きな声でお礼を言ってくれたけどね。
「さ、始めますよ。こちらの指示通りにしてくださいね。子供たちは前の方に来て座って。お年寄りや足腰の悪い人は真ん中の椅子に。大人は後ろの方で立ってください」
これまでは単なる読み聞かせだったから、声が聞こえる範囲に適当に領民を配置していたけれど、今回から紙芝居になるので全員が見えるように位置を調整している。
ちなみに、この位置調整のためと、紙芝居の読み方を教えるために、使用人に対して私が紙芝居の読み聞かせをすることになったのはご愛敬だ。
ま、私としては領民に読み聞かせをしようとも思ってたけど、それは使用人に止められちゃったわ。
「はい。では、本日は『魔界の森と兄妹』を読んでいきます。何度か聞いたことのある人もいると思いますが、途中で声を上げないようにお願いしますね」
使用人がタイトルを読み上げると、領民からは「あ~、あれね」「知ってる」などの声が上がる。
しかし、明らかにいつもとは違う準備にワクワクしている領民の方が多そうね。
「ここは小さな村。村人たちは畑を耕したり、狩りをしたりして生計を立てていますが、言い伝えが1つあります。それは村はずれにある森には近づいてはいけないというもの……」
領民が静かになったところで、使用人が読み聞かせを始める。
今回の話は禁忌とされている森に好奇心の強い兄妹が入り込んで、魔女や化け物に追われるというもの。
ラストは村人たちの真摯な願いが通じて、村の守り神に導かれて村へと無事に帰還するという話。
「……兄妹は持ち前の好奇心を抑えきれずに、禁忌とされている森へと踏み込んでしまうのです」
読み聞かせが続き、兄妹が禁忌の森へと足を踏み入れた瞬間、それまでタイトルが書かれていた紙がめくられ、おどろおどろしい森の絵へと変わる。
「「えっ!?」」
「「「ふわ~」」」
領民たちの反応は様々。驚いたような反応や感心したような反応が多いけれど、怖くて目を背けてしまう子供や、逆に絵の隅々をくまなく見ている大人もいる。
「ふふ、上手くいっているようね」
「ローズマリー嬢。こちらからは良く見えないが、絵が描かれているのか?」
「はい、原本はこちらにあります。今は、森の絵なのでこちらですね」
いくらグレイスでも、いきなり大きな水彩画を描くのは難しいということだったので、サンプルとして小さめの紙に描いてもらって、それを大きくするという手法を取ってもらった。
だから、こちらの手元にも紙芝居に描かれているのと同じ絵がある。
「ほう……これを領民は見ながら話を聞いているということか」
「絵があれば、どんな光景なのか、みんなが共有できますからね」




