66 お茶会パート2
「ローズマリー嬢、今日は新しい本を読ませてくれるのかな?」
「ええ、デビット様。本日は新しい本をご用意しました」
マリアから本の販売を取り付け、グレイスと絵師としての契約をした翌日、デビット様とケリー様を交えた5人でお茶会を開いている。
「こちらが翌月からグラース公爵家で販売される本です」
「ほう……これが」
「今回は悲恋話やホラー、友情など、これまでとはジャンルをガラッと変えております」
「なるほど。確かにこれまでの本は伝承話を除いては男女の恋愛……それも主人公が幸せになる話に偏っていましたね」
「言われるとそうだな。そもそも、このような形式の本が初めてだから気になっていなかったが、伝承話のような様々なジャンルはなかったな」
納得したように話すケリー様とデビット様。ま、グラース公爵家で販売を始めた本は、私が書いたエイミー用の物語が土台になっているから偏るのは仕方ないのよね。
グラース公爵家の主要客層もお母様がお茶会で獲得してきた貴族女性がメインだから、それ以外のジャンルを開拓するよりも恋愛話の冊数を増やす方が喫緊の課題だったし。
「ちなみに、こちらの1冊。こちらはここにいるマリアが執筆したものです。グラース公爵家では執筆者の情報は開示していませんが、マリアの意思によりここにいる人には伝えておきます」
「……教えてもらってよかったのかい?」
「本を読んだら感想を言い合うでしょう? その時に知らなければ辛辣な意見を言ったり、逆に褒めちぎったりする……慣れれば表情をとりつくろえますが、マリアにとっては処女作なので態度が露骨に変わるでしょう」
実際、マリアは私が褒めた時やグラース公爵家からの感想を伝えた時には、感動して泣きだしてしまったほどだ。
こうして一緒にグラース公爵家で一時的に暮らしているとはいえ、知り合って間もないデビット様やケリー様に感想を言われたら挙動不審になるだろう。
「ふむ……では、こちらの1冊に関してはウェザリー伯爵令嬢が作者だという認識をもって感想を言うとしよう」
「ま、そこまで気にしなくてもいいですけれどね。デビット様やケリー様が読んだ本の中には私が執筆した本も混ざってますし」
初期の本は、ほとんど私が書いた本なので、デビット様とケリー様を読書の沼に引きずり込んだ本は私作の本だ。
私が感想を言われることに慣れてしまったように、マリアもそのうちに慣れることだろう。
「ローズマリー嬢が書いた本っ!? いったいどれなんだ?」
「まあ、それはそれとして。マリアが書いたということはグラース公爵家以外には伝えないので、王立学園に戻った際には他言無用でお願いします」
「それは、この国の王族にもか?」
「はい。国王陛下にも作者に関する情報は提出していないので、聞かれてもグラース公爵家に回して大丈夫です」
ま、陛下にも作者に関する情報は教えないと明言しているので、わざわざデビット様やケリー様に聞くとは思わないけど。
「新作に関しては人数分の用意ができていますので、気になった本を部屋に持って行って大丈夫です。ただし、他の本と同じように汚損させた場合には買い取っていただくことになるので、注意してください」
「「「わかりました」」」
「ああ、わかった」
グレイス、マリア、ケリー様は同じ言葉で、デビット様は皇子らしく少し尊大に答えた。
「ほう……これは」
「あ、こちらは読ませていただいた本とはジャンルが違うのですね」
「グレイスが読んでいたのはこれですね!」
「デビット様、こちらも面白そうですよ」
お茶会に出席しているメンバーは、それぞれに本を読みだしてしまったので私は少し暇になる。ま、私は確認段階で全ての本を読んでいるから仕方がないわね。
「ローズマリー様、こちらを」
「ありがとう」
手持ち無沙汰になったのを確認したからか、使用人が紙の束を渡してくれる。
これはグレイスから借りている絵で、これを確認しつつ本に組み込めるものを選定するのが私の仕事だ。
だけど……グレイスの絵をただ単に本に挿絵として入れるだけというのはもったいないわね。
「ねえ、グレイス。この絵だけれど、もう少し大きくすることはできる?」
「ローズマリー様? 大きく……ですか?」
「ええ、紙はこちらで用意するから、その大きさに指定の絵を描いてほしいの」
「……多分、できると思いますが。キャンバスではなく紙……ですか?」
「ええ。紙だから画材は水彩で。なるべく多くの色を入れてくれると助かるわ……あ、画材も公爵家で準備するから」
グレイスの絵は特徴をとらえているけれど、それでいて現実の物とは微妙に違うから子供受けが良さそうなのよね。
だから、単に本の挿絵に使うだけじゃなくて、紙芝居を作れたら平民の識字率を上げることができるんじゃないかしら?




