63 お茶会
「ふう。……ローズマリー様、本当に私の物語が……って、第四皇子殿下に侯爵令息様!?」
あら、本の確認を終えたマリアがようやくデビット様とケリー様に気づいたわね。
「……あら? お二人もこちらにいらしたのですね」
マリアの声で気づいたのか、グレイスも本から顔を上げて同席している二人に声をかける。
「ああ、窓からお茶会の様子が見えてね。混ぜてもらったんだ。……しかし、普通に会話していたのに気づかないとは、よほど面白い本だったのかな?」
「あ……その……」
「デビット様。夢中になるのは仕方ないことですわ。マリアが読んでいたのも、グレイスが読んでいたのも、まだグラース公爵家ですら読んだ人が少ない新作ですから」
デビット様とケリー様にはマリアが書いた本だとは伝えない。そもそも、グラース公爵家では作者に関する情報を開示しておらず、作者自身が情報を公開した場合にのみ、事実かどうかを補足するだけだからだ。
だから、マリアの物語に関しても、マリア自身が自分が作者だと公言しない限りは伝えない……ま、マリアから物語を書いていると聞いたときに同席していたグレイスは知っているけれど。
「新作!? それは私たちも読ませてもらえるのかっ!?」
「少々お時間がかかりますが、問題なければ滞在中に閲覧可能になりますわ」
「ふむ……事情があるのだな」
多くは伝えなかったけれど、それでもデビット様とケリー様は納得してくれた。
「ローズマリー様……」
「マリア、本の感想は明日にしましょう。グレイスもね」
「はい、わかりましたわ。ローズマリー様」
「……ありがとうございます」
私の言葉にまずはグレイス、それから遅れてマリアも返事をする。マリアの本も守秘義務がかかるけれど、実はグレイスが読んでいる本も守秘義務がかかるのよね。
グレイスの呼んでいた本は作者から販売の許可はもらっているのだけど、グラース公爵家内で販売方法が議論されている最中の本だ。
通常通りに貸出・販売をするべき、あるいは寄子への貸出に抑えるべき、グラース公爵家内での保管に抑えるべき、と紛糾しているのよね。
ま、今まで販売していた本とはジャンルが違うから、こういう議論も出てくるわよね。
「そういえば、デビット様とケリー様は気に入った本はありましたか?」
「ふむ、気に入った本か。ありすぎるな」
「こちらもですね。ブラウン皇国には入荷されなかった本もたくさんありますから、目移りしてしまっていますよ」
「わかりますわかります!」
「そうですわね。オルセン侯爵家でも全ての本を購入できているわけではないですから、新鮮ですわ」
デビット様とケリー様に聞いたのだけれど、マリアとグレイスにも思うところはあったようだ。
「そうね。従来の本に比べれば安価にはしているのだけど、全ての人が手に取れる金額にはなっていないのよね」
前世の感覚でいえば従来の本が1冊当たり100万円くらいかかっていたのが、グラース公爵家の本だと数万円くらいに値下げされている。
貴族だったら簡単に買える値段じゃ? って思われるかもしれないけど、貴族になってみてわかったのは、意外とプライベートで使えるお金が少ないということ。
貴族生活に必要な衣装代や歓待費用なんかが厚めにとってあるから、貴族としての生活に関係のない個人の主務や娯楽にかけられるお金が少ないのよね。
「価格を下げるのは?」
「いずれはそうなります。しかし、原料を確保するためにも本を作成するためにも多大な費用が掛かっているので、簡単に値下げをしてはグラース公爵家が潰れます」
最初は私の趣味で始めた本作りだけれど、今や立派なグラース公爵家の事業となっているから、関わっている人数が当初よりも多くなっているのよね。
大量生産すれば1冊あたりの値段も下がるのだけど、グラース公爵家やスペンサー子爵家の優位性が崩れるから、製造方法を開示することもできないし。
「ふむ。では、しばらくはこの値段か」
「そうですわね。それこそ、全ての本を簡単に読むのならグラース公爵家の関係者になるのが手っ取り早いかもしれません」
場を和ますためのジョーク……のつもりだったのだけれど、なぜか同席していた4人の目が光った気がした。
「はいはいはい! じゃあ、王立学園を卒業したらローズマリー様の侍女になります!」
「……私は」
「ふむ、その手があるか」
「デビット様。熟慮してくださいね」
率先して侍女になる宣言をしたマリア、何か悩んでいるように見えるグレイス、考え込み始めたデビット様、それをいさめるケリー様。
あらあら、もしかして私の不用意な一言で、この場にいる人の将来が決まる? まさか、そんなことないわよね。




