62 農作物と呼び方
「興味深いね。グラース公爵家は農作物が主力だと聞いていたけれど、貴族向けの農作物はないのかい?」
お茶会に急遽参戦したデビット第四皇子が、興味津々といった様子で尋ねてきた。
「テイラー王国の公爵家のうち3家が農作物を収入源としているのですが、それぞれに役割が違います。1家は貴族向け、1家は貧民や家畜向け、そして我が家は平民向けです」
「ふむ。分ける理由は?」
「貴族向けは味だけでなく形や肥料の種類などを厳選しているので、数がそろいません。逆に貧民や家畜向けは量が必要です」
貴族向けはブランドというか、希少価値も重要になるので大量に作るわけにはいかないし、味を追求するためにも作付けできる土地が限られる。
逆に貧民や家畜向けは大量に必要になるので、味よりも量。土地が瘦せないギリギリを狙って大量に作ることを至高命題としている。
「それぞれに方向性が違うから、一緒にするわけにはいかないと」
「ふふ。貴族が貧民と同じ食べ物というのは外聞も悪いですし、国内はともかく国外からいらっしゃるお客様に味の悪いものを出すわけにはいきませんからね」
前世だったら貴族だから特別とか差別かよっ! ってツッコムところだだけど、この国では貴族がいなければ平民は安心して暮らすことができないので差別があって当たり前だ。
魔力防壁なしの暮らしが、どれだけ大変かがわかっているから、平民は税を納めることに異議を唱えることはないし、貴族に対して恨みを持つこともない。
前世で読んだ物語では王侯貴族を打倒して民主主義に持っていく話もあったけれど、この国でそんなことをしたら国民は全滅よね。
「ふむ。グラース公爵家の平民向けというのは?」
「貴族向けほど味は良くないですが、さりとて貧民向けほど味が悪くない。貧民向けより量は取れませんが、貴族向けほど生産量を絞っているわけでもない……そういうことですわ」
本当に普通に普通ということ。味も量も普通だけど、だからこそ調整が難しいのよね。
「なるほどな」
「そういうわけで、デビット第四皇子殿下にお出しするのはグラース公爵家で採れた作物ではないのですわ。お茶もしかり、野菜もしかり」
「ふむ。歓待されているとなると嬉しいところだが、グラース公爵令嬢も同じなのか?」
「私ですか?」
「そうだ。私やジョンと同じように貴族向けの作物を食べているのか?」
痛いところを突いてくるわね。
「今はそうですわね。お客様用と家族用で料理を分けるのは料理人の負担が大きいですし、同じものを食べていますわ」
「普段は?」
「……まあ、地産地消は大事ですから」
もちろん、普段はグラース公爵領で採れた作物を食べている。正直な話、貴族向けの作物はブランドの力が値段に反映されているから、値段で考えるとウチで採れたものと大差ないのよね。
「ふむ、グラース公爵領の作物も気になるな……そのうち、領内を案内してくれるか?」
「デビット第四皇子殿下が求めるのなら」
自国の王族ではないけれど、隣国の皇子であるデビット第四皇子の要請を断るのは得策ではない。
「デビットで良い」
「はい?」
「私としては、それなりに仲良くなったと思っているし、こちらが要請したこととはいえ、こうして家にまで招かれているんだ。皇子殿下なんて呼び続けるのは大変だろう?」
「…………」
まあ、確かに大変か大変でないかと聞かれれば、毎回毎回デビット第四皇子殿下なんて呼ぶのは大変だ。
私には前世の記憶があって、そこでは呼び捨てだったり軽い敬称をつけるくらいだったから、なおさらね。
だからといって、皇子であるデビット第四皇子に対して気軽に呼び捨てする気にはならないけれど。
「それとも、仲良くなっていると思っているのはこちらだけだったかな?」
「……はあ、わかりました。では、これからはデビット様と呼ばせていただきます。こちらもグラースではなくローズマリーでよろしいですわ」
「ふむ。では、ローズマリー嬢と」
「横から失礼します。デビット様から敬称を外すのなら、こちらも敬称を外していただけませんか? ジョン、あるいはケリーでよろしくお願いします」
まあ、主であるデビット第四皇子をデビット様と呼んでいるのに、その従者的なポジションにいるケリー侯爵令息はそのままというのも外聞が悪いのだろう。
「では、ケリー様と。デビット様と同じく、ケリー様もローズマリーでよろしいですわ」
「ありがとうございます。では、私もデビット様と同じくローズマリー嬢と呼びますね」
無理やり感があったけれど、確かにこれだけ仲良くなって、学園でも頻繁に話すのに堅苦しい呼び方なのはおかしいかもしれない。
これから、2人とどうなるのかはわからないけれど、今日のことは良いきっかけだったのかもね。




