61 新作本のお披露目
「マリア、これが貴女の書いた物語の本よ」
グラース公爵家へ戻ってきてから数日、ようやく私が処理する仕事がひと段落着いたということで、グレイスとマリアを誘ってお茶会を開いている。
2人も真っ先に読みたい本は読み終わったということで、ちょうどいいタイミングだったようだ。
「これが……私の本!」
装丁自体は他の本と変わらない……というのも、この世界では絵やイラストの印刷ができないのよね。
いや、印刷自体はできるのだけど、印刷に適した絵が存在しない。この世界では、線の細かい絵が素晴らしいとされているのだけれど、それを印刷しようと思えば線が潰れる。
そんなわけで、グラース公爵家が販売する本は基本的に無地で、一部のこだわりのある作者のみがお抱えの絵師に一冊一冊、表紙を書かせているというわけ。
「マリアが確認した原稿そのままに作成しているから大丈夫だとは思うけれど、確認してくれるかしら? マリアの確認が取れたら販売を開始するわ」
最終確認を取ってから印刷を開始しているけれど、実際に本になってみるとイメージと違うと言い出す人が少なからずいる。
ほとんどは説得すれば納得してくれるレベルだけれど、作者本人が納得しないまま販売しても後々問題になるので、本にしたものの販売中止となった本もいくつかある。
「……うん……うん」
「ふふ、自分の本に夢中ね」
「ローズマリー様、私も読むわけには……」
「グレイス。マリアが許可しない限り、それはできないとわかっているわよね?」
「……はい」
「そんなに落ち込まないの。マリアの本は見せてあげられないけれど、こちらなら大丈夫よ。昨日、作者の許可が取れたばかりの新作よ」
「良いのですか?」
「ええ。……ただ、好む人を選ぶ本とだけ言っておくわ」
「マリアの本みたいにですか?」
「それ以上ね。読んでみればわかるわ」
今回の本は作者から直接相談を受けた本で、いわゆる男性同士の友情をメインに扱った物語だ。
BLとまではいかない……ただ単に、騎士団に所属する2人の騎士の熱い友情を描いた物語で、女性陣からは好評だったものの、男性からは不評だった。
それもそのはず、騎士を扱った物語だというのに戦闘の描写は少なく、2人の騎士の確執、和解、友情を育む要素が大きい……ま、男性には退屈かもね。
「……うんうん……なるほど」
あらあら。本を渡したら、グレイスはそれに夢中になってしまったわ。今度は私が手持ち無沙汰になってしまったわね。
「次に本にする物語のリストを持ってきてくれる?」
「お嬢様。原稿もありますが、リストでよろしいのですか?」
「ふふ、2人の前で守秘義務のかかる原稿を読むわけにはいかないわ。リストの方なら、作者名とジャンル、それにタイトルだけだから、まずはそちらを精査するわ」
「承知いたしました。すぐにお持ちいたします」
普段ならエイミーに頼むところだけれど、エイミーは休暇を取っているので、傍にいる侍女にリストを取ってくるように頼む。
ちなみに、私たちの周囲にはメイドが控えているので、お茶やお菓子はメイドが用意してくれるので侍女が離れても問題ないわ。
「おや、お三方。こんなところでお茶会かい?」
「デビット第四皇子殿下。それにケリー侯爵令息。お二人は散歩ですか?」
「いやいや、部屋で本を読んでいたのだが、窓からグラース公爵令嬢の姿が見えたからね。体を動かすついでに様子を見に来たのだよ」
ふと見上げれば、確かにデビット第四皇子とケリー侯爵令息が泊っている客室の窓から、お茶会を開いている中庭が丸見えね。
「お二人も参加なされますか?」
「うむ、お茶会自体も気になるが、オルセン侯爵令嬢とウェザリー伯爵令嬢が読んでいるのは?」
「グレイスとマリアが読んでいるのは新作の本です。グレイスが読んでいるのは本日販売が開始される本で、マリアが読んでいるのは販売開始前のチェック本ですね」
「そんなものが……それは図書室には」
「まだ入っていませんよ。もちろん、部屋に持って帰るのもダメですから、読むのならここでお願いしますわ……ああ。悪いですが、マリアが読んでいる本はチェック中なのでお見せできません」
「……うむ。部屋で読めないのは痛いが、新作の本は気になる。ジョン、それでいいか?」
「はい。私も新作の本が気になります」
というわけで、デビット第四皇子とケリー侯爵令息もお茶会に追加だ。
まあ、2人が来た時点でメイドたちが椅子やら何やらを準備してくれていたから、お茶会への参加はスムーズよ。
「まずはお茶ですね。こちらはテイラー王国で産出された茶葉です。お気に召すとよろしいのですけれど」
「グラース公爵領のお茶かい?」
「いいえ、他家の物ですわ。グラース公爵領では貴族向けの農作物は作っていませんもの」




