58 いざ、グラース公爵領へ
「おおっーー、ここがグラース公爵領か」
お父様から許可が下りたので、デビット第四皇子に本を見せることになったのだけれど、タウンハウスに全ての本を持ってくるよりもデビット第四皇子をグラース公爵家に招いた方が早いと結論付けられた。
というわけで、私はデビット第四皇子とケリー侯爵令息、それにグレイスとマリアを連れて帰省している最中よ。
ちょうど夏の長期休暇に入るところで、私としても実家に帰る予定だったからね。
「正確にはグラース公爵家が治める直轄領ですね。ここまでの道中もグラース公爵領ですわ」
「ふむ……ブラウン皇国とは統治の仕方が違うのだな。ブラウン皇国では、自身が治める場所だけを自領と呼ぶ」
「ええ、テイラー王国の中でも公爵家は自領の一部を寄子の貴族に統治させていますので、グラース公爵領の中でも治める領主が違うのです」
グラース公爵家だとスペンサー子爵領が真っ先に思い浮かぶけれど、その他にも数多くの男爵家や子爵家が寄子として公爵領の各地を治めてくれている。
ちなみにグラース公爵家が治める直轄領は公爵領の中でも中央寄りなので、王都だけではなく他の領からグラース公爵領を訪ねた場合でも、グラース公爵家に直接来ることはできないわ。
「ふむ。直轄領と寄子が治める領では、やはり特色が違うのか?」
「そうですね。基本的にグラース公爵領は農業が中心なので、直轄領でも寄子の領でも畑が多いのは変わりませんが、副業として行っている事業はそれぞれ違いますね」
スペンサー子爵領が印刷を事業としているように、他の寄子たちもそれぞれ事業を展開している。
グラース公爵領は農業がメインだから、少し珍しい植物を育てているところが多いけれど、最近のトレンドは紙の原料になる植物ね。
「なるほど」
「まあ、王都とは違って娯楽の少ない田舎ですから、飽きたら途中で王都に帰ってもよいですからね」
「いやいや、王国中の物語が集まっている地なのだから、飽きるということはないだろう」
「ふふ。本好きの人からすればそうかもしれませんね。でも、商人や騎士の人の中には娯楽が少ないと言って王都に足早に向かう人が多いですからね」
グラース公爵領では商人に個別販売する商品が少ないのよね。本にしてもグラース公爵家が顧客に直接販売しているし、農作物に関してもほとんどは税として王都に送られて、残りは公爵家と契約している商人が持っていく。
だから、旅商人のように各地の特産品を運ぶ商人からしたら旨味の少ない領なのよね。
ちなみに騎士に関しては、歓楽街が少ないのがつまらないらしい。公爵家では昔から歓楽街を規制していて、公爵家が発行する資格を取っていない業者は店を構えられないからね。
「ふーん。私にとっては、この畑が続く風景だけでも楽しいけどな……なあ、ジョン」
「そうですね。ブラウン皇国では皇都周辺で農業を行っている貴族がいませんからね。皇都から出たことのなかった私たちにとっては新鮮ですね」
そんなものか……いや、そうね。前世でも都会にずっと住んでいる人は畑は写真の中の風景であって、実際に見たことのある人は少なかった。
今世では魔導具という便利なものはあるけれど、カメラやビデオといった画像や映像を残せるものはないから、余計に自分の知らない風景には感動するのかもしれない。
え? 商人や騎士? あの人たちは王国各地を渡り歩くのが仕事みたいなものだから、風景なんかで感動する段階はとっくのとうに終わっているのでしょう。
「では、今のうちに公爵家で過ごすうえでのルールを確認しておきましょう。希望者には使用人を使るのですけれど、グレイスとマリアには必要よね? デビット第四皇子殿下とケリー侯爵令息はどうしますか?」
私の問いに対いてグレイスとマリアは頷いている。
「ああ、私のことはジョンが面倒を見るから大丈夫だ」
「そうですね。さすがに他国の使用人の世話になるのは問題になりそうですし、デビット様のお世話は私が見ますよ。食事や湯の準備だけお願いします」
ということで、デビット第四皇子の世話はケリー侯爵令息が見るらしい。ま、学園でも2人はそんな感じで、ほかに使用人はいないから想像通りね。
「では、そのように。閲覧可能な本に関しては屋敷の一室を図書室として、そこに集めてありますのでご自由に。本の持ち出しに関しては、図書室に常駐している使用人の指示に従ってください」
本が販売されるようになってから、前世の知識を使って図書室を作ってみたけれど、これが使用人からの評判が高い。
特に本の貸し出しを制度化したのだけれど、それが好評。休憩時間や寝る前なんかに自室で本を読めるのが良いみたいね。




