57 お父様との話し合い
「ふむ、ブラウン皇国のデビット第四皇子が我が家の本を見たい……か」
あれからしばらくして、王都のタウンハウスにお父様がやってきたので、デビット第四皇子の要求を伝えてみたわ。
「ブラウン皇国とは長くお付き合いしたいですし、断る手はないと思いますわよ」
「……ふむ、まあ王子に関する問題もひと段落着いたし、皇子と関係性を持っても大丈夫か」
「はい?」
お父様の口から、よくわからない言葉が飛び出したわ。……皇子と関係性を持つ?
「ん? 王子がグラース公爵家の跡取りを婚約者だと声高に叫んでいる最中に、ブラウン皇国の皇子と良い仲になれば叛意を疑われるだろう」
「いえ、そもそもデビット第四皇子とは、そういう仲ではないのですが……」
「デビット第四皇子を我が家に連れてくるという話だろう?」
「本を確認するために、です。そもそも、まだ出会ったばかりで人となりもわからないのに、そういう関係にはなりませんよ」
デビット第四皇子がどうこうという話ではなく、まだ出会ってから1ヶ月くらいしか経ってないのに、婚約を考えるような仲にはならないでしょう。
この世界が恋物語の中なら、そういうこともあるでしょうけれど、現実世界としてとらえている私にとっては少し仲が良くなったくらいで婚約なんて大それた発想よ。
「ふむ……ま、私としてはデビット第四皇子と仲良くなることは良いと思っている。そう、覚えておいてくれ」
「会ったこともない人を簡単に信じるのは、いくらお父様でもどうかと思いますわ」
お父様のことを信用していないわけではないけれど、会ったこともないデビット第四皇子と仲良くなってもいい……つまり、婚約者にしてもいいだなんて流石に言いすぎよ。
「いや、会ったことはある。昨日、陛下に到着を知らせた際に、王宮で少し話をした」
あら? いやにデビット第四皇子を推してくると思ったら、すでに出会っていたのね。
「どんな話をしましたの?」
「ローズマリーを褒めたたえていた。それだけなら、よくある話だが、デビット第四皇子からは下心が見えなかった」
「……下心」
自分でいうのもなんだけれど、私は公爵令嬢……次期公爵であるし、物語の本を国内外に流行らせるという実績まで持っている。
当然ながら、そんな私を褒めたたえてくる人間は後を絶たないのだけど、ほとんどの人間は嫉妬心や嘲りを隠したり、明らかにこびている雰囲気が見える。
まあ、だからこそ、そういったことのないマリアとグレイスとは心の底から仲良くなれているわけだけれど。
「ローズマリーの婚約者を私が決められなかったのも、それが原因だ。高位貴族であろうとも、婿入りが可能な三男、四男ともなれば下心を隠せていない者が多い」
「まあ、それはわかりますわ。どの方も我が家との繋がりを重視していたり、私の功績を奪おうとしていますからね」
もちろん、顔に出さないだけの分別がある人もいるけれど、少し探りを入れればボロが出るような考えなしが多いのよね。
そんな人をグラース公爵家に迎えても私の邪魔をするだけだから、未だに私の婚約者は決まっていない。
「デビット第四皇子は少なくとも私の前では下心を見せなかったし、軽く探りを入れてみてもボロは出なかった……ローズマリーの方だどうだ?」
「……そうですわね。確かにデビット第四皇子とは、それなりにお話ししていますけれど、今のところ下心は見えませんわ」
「というわけで、私としてはデビット第四皇子と仲を深めるのは良いことだと思う。ま、相手があることではあるから無理強いはしないが、考えておいてくれ」
「……わかりました。これまでデビット第四皇子のことを、そういう風に見ていませんでしたが、これからは婚約者候補として観察してみますわ」
デビット第四皇子のことは悪い人だとは思っていないけれど、それは本好きの友人としての感想だわ。
婚約者として見るのなら、様々な観点からデビット第四皇子のことを観察しなければならないわ。
人間関係、問題が起きた時の対処能力、そもそもの学力などなどね。
「……ローズマリー。少しは年頃の少女らしく、自分の気持ちを優先させていいんだぞ?」
「あら、お父様。それで苦労するのは未来の私ではないですか。私はそんなのごめんですわ」
もしも前世のように一般人だったら、そういった選択肢もあったのかもしれないけれど、公爵として家と領民を支える未来が見えているのだから、傍にいる人は有能でなくては困るわ。
後継ぎを産まなければならないから、少なくとも出産前後の私を支えられるほどには有能な人にね。




