56 王子の噂
「あっ! ローズマリー様! 聞きましたか!?」
「あら、マリア。おはよう」
「あっ! おはようございます」
「ふふ。そうね、挨拶は大事よ……で、どうしたの?」
教室へと足を踏み入れると、マリアが元気よく駆け寄ってきたのだけど、話しかける前に挨拶よ。
「そうですそうです! 王子殿下が学園からいなくなるそうです」
「あら?」
私が聞いた話では、学園には在籍しているけれど、登校はしないということだったけれど?
「マリア、それでは王子殿下が退学になるように聞こえますよ。ローズマリー様、おはようございます」
「グレイス、おはよう」
マリアと話していると、グレイスも遅れてやってきた。本当にマリアとグレイスは仲がいいわね。
「グレイス! でも、王子殿下が学園に来なくなるのはその通りでしょ?」
「登校しなくなるだけで、王子殿下は学園に在籍しているのだから、いなくなるという表現はよくないわよ」
「ふふ、そうね。マリアも物語を書いているのだから、表現には気をつけなくちゃ」
第二王子に関しては私、それにお父様からも王城に抗議を入れたけれど、思いのほか早く動いたわね。しかも、第一皇子も巻き込む形で。
王城としても王子たちの教育に匙を投げていたのか、それともデビット第四皇子を巻き込んだことを重く見たのかわからないけれど、私にとっては助かる話よ。
王城からの返答では第一王子、第二王子は離宮で静養、次期国王は第三王子と第四王子の成長を待って決めると書かれていたから、私が王子たちに絡まれることはなくなったわね。
「いや、参ったよ」
「デビット第四皇子殿下、おはようございます」
「グラース公爵令嬢、おはよう。……聞いたかい? ロバート第二王子のこと」
疲れ切った表情で教室へとやってきたデビット第四皇子だけれど、第二王子のことを聞くときにはさらに声を落としたわ。
デビット第四皇子にとってはテイラー王国は他国なので、情報がどれほど回っているのかわからないのでしょうね。
「ええ、聞き及んでおります。離宮で静養なさるとか」
「ああ、そこまで知っているんだね。昨日の夜から今朝まで、ロバート第二王子の侍従が国王にとりなしてくれと言ってきて、うんざりしているんだよ」
「あらあら。デビット第四皇子殿下に頼んでも無理でしょう」
「そうなんだよね~」
今回の一軒に関してはデビット第四皇子も被害者だから、陛下にとりなしてもらおうと思うのは普通の考えだけれど、問題の本質は国の重責を担う公爵家を害したことなのよね。
テイラー王国は自給自足が可能な国だし、魔力防護壁で国防も完璧なので隣国はさして重要ではない……と言っても、無駄にケンカを売る必要もないから友好的に接してはいるけど。
だから隣国の皇子と、自国の次期公爵なら、陛下であっても次期公爵の機嫌を優先する。
「そっちには問題は起きてない?」
「昨日の今日ですし、さすがに公爵家宛ての手紙は王城も目を光らせていると思いますので、今のところは大丈夫ですわ」
「それなら良かった。悪いことをしたわけではないけれど、私が気軽に話しかけた結果、迷惑をかけていたら合わせる顔がないからね」
「ふふ、気にしなくて大丈夫ですわ。こちらこそ、王子殿下が迷惑をおかけして申し訳ありませんわ」
別に謝る義理はない、とも思うけれど、これでも次期公爵なので、自国の問題に他国の留学生を巻き込んだことは謝罪しておかなければならないだろう。
「それこそグラース公爵令嬢が謝ることじゃない……と、言いたいけれど、そう思ってるなら、こちらの願いを叶えてくれないかな?」
「願いですか?」
「うん。グラース公爵家が販売している本を直接確認させてほしいんだ」
「直接……ですか? 昨日はリストが欲しいという話でしたが」
「そうなんだよね。本来はリストを確認して王城に保管してある現物を見せてもらう手はずだったんだけど、ロバート第二王子との一件で図書室に入るのがためらわれてね」
ああ、第二王子は腐っても王子で、お茶会の後からの苦労を知っている人も王城には多いから、今回の一件でも同情的な使用人がいるのだろう。
そういった人は今回の一件を私やデビット第四皇子が原因と考えているかもしれないし、図書室なんて閉鎖空間には行きづらいか。
「……少し考えさせてください。タウンハウスに招くにしても、責任者である父に相談しなくてはなりませんし、そもそもタウンハウスには全ての本がそろっていませんから」
グラース公爵家で販売されている本だけれど、製造拠点はスペンサー子爵領で、販売拠点はグラース公爵領なので、王都のタウンハウスには私が読みたい本しか置いていない。
そうでもしておかないと、タウンハウスに本が欲しいという貴族がやってきてしまうからね。




