55 王子の処分(国王視点)
「エリックを呼び出せ」
「はっ!」
我の名前はランス・テイラー。テイラー王国の国王をやっているものだ。
息子であるロバートが問題を起こしたので、事態の収拾に奔走しておるが、今回の問題はロバート一人の問題では済まない。
スペアであるロバートが問題を起こしたからには、簡単にエリックを王太子にするというわけにはいかなくなった。
「父上……私はどうなるのでしょう?」
「ロバート、少し黙っておれ。お前の処分はエリックがやってきてから決める」
不安そうな顔をしているロバートだが、王子であるのなら自分が起こした行動で、どのような問題が起こるのかを考えてほしかった。
「父上、お呼びと聞きました」
騎士の一人がエリックを連れてきた。
「エリック、こちらに来なさい……さて、今回呼び出したのはロバートのことだ。エリック、何か思いつくことはないか?」
「……まさか、父上! ロバートが抜け駆けしたのですかっ!?」
「ほう。わかるか?」
ロバートの考え方が王妃によって歪められていた、ということはエリックにもその恐れがある。
そう考えてエリックに対して含みのある問いかけをしてみたのだが、やはりというかなんというかエリックの考えも汚染されているようだ。
「父上、ロバートにはローズマリーはふさわしくありません! 私こそがローズマリーを娶るのにふさわしいのです!」
「ほう。ローズマリー……ローズマリーな」
「はい! 私がローズマリーを娶れば、二人で協力してこの国をもっと発展させてみせます!」
「ところで、エリック。グラース嬢のことをなぜ名前呼びしているのだ?」
「……は?」
「入学式の後に婚約者でもない女性を名前で呼ぶなと、そう教育されなかったか?」
「……あ……それは」
「はあ。何を勘違いしているのかわからんが、ロバートはグラース嬢が留学生であるデビット第四皇子と話していたことで騒ぎを起こした」
「な、デビット第四皇子がローズマリーと!?」
「だから、婚約者でもない女性を名前で呼ぶな! 未婚で婚約者もいないグラース嬢が誰とどんな会話をしようが、お前が関わることではない!」
「あっ」
エリックの方を見やると青ざめた顔でこちらを窺っているが、明らかに反応が遅い。
王族……それも国王になろうという人間なら、この程度のことは自分で気づかなければならないし、一度叱責されたのなら繰り返してはならない。
「はあ……ロバートの起こした問題でお前まで巻き込まれるのは不憫だと思ったが、お前もそのような認識なら処分に問題はないな」
「……処分!?」
「王妃は宰相の調査が終わり次第、離縁し隣国へと帰す。お前たちは離宮で過ごせ。教師の手配はこちらでする。第三王子と第四王子が10歳になった時点で、お前たちには子爵位を与える」
「ま、待ってください父上!」
エリックが来てから黙り込んでいたロバートが突如として口を開く。
「第三王子と第四王子ですか!? それは妾の子ではありませんかっ!?」
つられたのか、青ざめた表情のままエリックも勢い込んで口を開く。
「妾の子? 王妃と離縁すれば、お前たちも同じ立場だ。それに、離縁後は彼女が王妃だ。その子供に王位を継がせることに問題はない」
普通は妾の子となれば王位につかせるのは難しくなるが、妾自体が貴族たちの後押しで決まったものなので、問題にする貴族はいないだろう。
それよりも、ここまで問題を起こした第一王子、第二王子を王位につかせる方が難しい。
「そ……それは」
「本来なら子爵とはいえ貴族になるためには王立学園の卒業が必要だが、そちらに関してはなんとかできるようにしておく。とにかく、お前たちはこれ以上問題を起こすな」
「「うう……」」
「……ロバート。お前は休学中に、とある女生徒が起こした問題に巻き込まれたな」
「……? はい」
「その時に身勝手なものの言い分に振り回される苦しみを味わったのではないのか? なぜ自分も同じことをした?」
ロバートが休学中に、とある女生徒がロバートのことを自分の恋人だと言い張って暴れたことがあった。
「……あ。…………ああ」
「グラース嬢には、お前との接点はほとんどない。話したのも幼少期のお茶会だけだろう。そんな者から、自分の婚約者だと言われた恐怖をなぜわかってやらなかったのだ」
問題を起こし、考えが汚染された王子二人を幽閉するというのは、国王として間違っていることだとは思わない。
しかし、父親としては、二人をもっと良い道へと導けなかったのかと思わずにはいられない。
離宮で再教育を受けて、少しでも二人がまともになってくれることを祈ろう。




