53 変わらないロバート第二王子
「やあやあ、グラース公爵令嬢! 本日も麗しいね」
留学翌日だというのに、すでにデビット第四皇子は王立学園に慣れているかのように、私に話しかけてくる。
ま、皇子という立場を考えれば王家や公爵家くらいしか家格が合わないから、間違ってはないないけれど、第二王子が睨んでくるから気安く話しかけるのはやめてほしいわね。
「おはようございます。デビット第四皇子殿下」
「うむ、昨日は有意義な話し合いができて非常に助かったぞ」
「であれば、光栄です。ブラウン皇国では上手くいきそうですか?」
「今朝、手紙を送ったところだ。父上や兄上次第ではあるが、あの内容なら前向きな返答が来るだろう……返答が来た際には、また相談させてもらってよいか?」
「ええ。グラース公爵家にも関わることですから、もちろんですわ」
デビット第四皇子も笑顔だし、本当にうまくいきそうなのね。私としてもグラース公爵家としても、本が売れれば嬉しいし、本当に良いことだわ。
ま、あそこで睨んでいる第二王子を除いてはだけど。
「よかった! そういえば、商人から聞いたのだが、貴族なら本の購入が可能なのだろう?」
「ふふ。お耳が早いですわね。確かに貴族ならグラース公爵家から販売している本は購入可能ですわ。在庫があれば、ですけれど」
「在庫がないものはどうするのだ?」
「一定の受注数となった段階で、本の作成に取り掛かります。製作方法は教えられませんが、グラース公爵家で販売している本は大量に作らなければ意味がないので」
「ほう。なるほどな」
「ただし、国内で購入した本は国外への持ち出しは禁止ですけれど」
「……ああ、やっぱりそうなのか」
「でなければ、デビット第四皇子殿下みたいにテイラー王国へとやってきた貴族が買い占めてしまいますからね」
あら? デビット第四皇子と呼んだ瞬間に第二王子がこちらを睨みつけてきたわ。
「それは残念だ……それはそうと、今度グラース公爵家から販売されている本を教えてくれないか? リストはもらっているが中身がわからなくてな」
「ええ、もちろんですわ」
「おいっ! いくら隣国の皇子であっても距離が近すぎるだろうっ!」
あらあら、デビット第四皇子と商談をしていただけだというのに、第二王子が突撃してきたわ。
本当に何様のつもりなのでしょう? あ、王子様か。
「ロバート第二王子。一体何なんだい? そんなに大きな声を出して」
「デビット第四皇子! 我が国の令嬢に近づくのはやめてもらいたい」
「近づくって……普通に話をしていただけだよ? テイラー王国では人が大勢いるところでも、令嬢と話したらいけないのかい? それとも、グラース公爵令嬢はロバート第二王子の特別な人なのかい?」
まあ、当然の疑問よね。密室で二人きりで会っているとかなら、はしたないとか不貞を疑われても仕方がないけれど、ここは教室で周りには大勢のクラスメイトがいる。
この状態で咎められるのなら、テイラー王国では男女が話をしてはいけないということになる……もちろん、そんなことはないから完全に第二王子の言いがかりね。
「ああ、そうだ! ローズマリーは私の婚約者となるのだからな!」
「……本当かい?」
「いいえ、事実無根です。……ロバート第二王子殿下。何度も申していますが、名前で呼ぶのはおやめください。私のことはグラース公爵令嬢、あるいはグラース嬢でお願いします」
本当に何度言っても名前呼びをやめないわね。ほら、デビット第四皇子もビックリしているじゃないの。
テイラー王国だけでなく、ブラウン皇国でも家族、婚約者、あるいは長年親しんでいる幼馴染でもなければ異性のことを名前で呼ぶ貴族はいないわ。
「ロバート第二王子。グラース公爵令嬢もこう言っているし、名前で呼ぶのは感心しないね。それに、相手の意思を無視して自分の気持ちを押し付けるのも」
「うるさいうるさいうるさい! 私は王子だぞ! ゆくゆくは国王となるのだ! 自分の伴侶を自分で決めて何が悪い!」
何が悪いと聞かれれば、全てが悪いわよ。そもそも、貴方は第二王子であって王太子ではないから、次期国王って決まってるわけではないのよ。
それに、いくら王だからってなんでも思い通りになるわけないじゃない。グラース公爵家は公爵家の中では立場が低いけれど、それでも国内貴族の中では上位よ。
何のメリットもない……どころかデメリットしかないのに唯一の跡取りを王家に差し出すなんて、するわけないでしょう。
「何を騒いでいる!」
あら? もう教師がやってくる時間だったのね。
「おや、もう授業時間でしたか。いえね、グラース公爵令嬢と話していたら、ロバート第二王子が話すなとやってきたのです。事情を聞けば、独りよがりにグラース公爵令嬢は自分の婚約者になるからだ、と」
「ロバート第二王子……また騒ぎを起こしたのですね?」
「何が悪い! ローズマリーは私の婚約者……いや、伴侶だ! 貞淑さを求めて何が悪い!」
「はぁ。……すまないが、そこの君。隣のクラスから教師を連れてきてくれ」
第二王子の言い分に教師も呆れて何も言えないみたい。指示された生徒も第二王子の様子のおかしさから、すぐに教室から離れて、隣のクラスから教師を連れてきてくれたわ。
「ああ、すみません。ロバート第二王子の様子がおかしいので、学園長室まで連れて行ってもらえますか? 私は教室内の生徒に聞き取りをした後で向かいますので」
「…………ああ、わかりました。ロバート第二王子、暴れずについてきなさい。暴れたり拒否すれば、騎士が出動することになりますよ」
隣のクラスの教師は第二王子の様子や教室内の雰囲気から、なんとなく事態を察したようね。
ま、もしかしたら隣のクラスまで第二王子の暴言が聞こえていたのかもしれないけれど。
騎士が出動するとまで言われたら、さすがの第二王子も自分のやらかしに気づいたのか、教師におとなしくついていったわ。




