52 婚約者の条件
「それにしても意外でしたわ」
「そうですそうです!」
デビット第四皇子とケリー侯爵令息の2人が帰って行ってから、グレイスとマリアが私に話しかけてくる。
「何が?」
「ローズマリー様が留学生のお相手をしたことですわ」
グレイスが言うには私がデビット第四皇子とケリー侯爵令息の相手をしたことが不思議らしい……あら、マリアも同じ意見なのか頷いているわね。
「そう? 容姿が気に入って声をかけてきたとかなら考えるけれど、グラース公爵家の事業に関わることだもの。質問にくらい答えるわ」
王子2人のように勝手にわめいて婚約者だなんだと騒ぐのなら無視するけれど、本に関することなら話すくらいは問題ない。
というよりも、グラース公爵家としても国外での本の評価は気になっていたことだから、生の声が聞けてありがたいくらいだわ。
「えええ~!? あれだけのイケメンがきたら容姿目当てでも答えませんか!?」
あらあら、マリアは正直ね。
「容姿がいいのは認めるけれど、私はそれでも王子殿下のように身勝手に迫られるのはゴメンね。特に、公爵家よりも権力がある人は話を聞いてくれないもの」
「「あ~」」
マリアだけじゃなくてグレイスも納得してくれたみたい。権力がない相手が、こちらの意思を無視して話しかけてきたら適当にあしらえるけれど、王子はムダに権力があるのが問題なのよね。
それはデビット第四皇子も同じことで、隣国の皇族であることを前面に出して迫られた場合には、こちらは答えないという選択肢しかない。
「だから、いくら容姿が良くても話し合いができない人はゴメンね」
ちなみに、デビット第四皇子もケリー侯爵令息もイケメンと呼んでも差し支えないくらいの容姿で、もしも前世だったら写真集にして売り出したいくらいだった。
でも、この世界ではカメラは存在しないし、私も作り方を思いつかないから、写真集を作るのは無理だけどね。
というか、カメラが作れたとしても写真を印刷する技術がなければ、写真集なんて作れないし。
「は~、イケメンなら多少話が通じなくても問題ないと思ってました!」
「私もですわ。侯爵家はそうでもないですけれど、上位貴族は容姿が整っている方ばかりですから、婚姻に際しては容姿も重要視していると思っていましたわ」
「まあ、完全に要らないというわけではないけれど、私にとっては重要ではないわね。そもそも、容姿なんてお金をかければある程度は矯正できるし……あ、でも容姿が絶対って人はいると思うわ」
前世でもそうだったし、この世界でもそうだけれど、食べ物や運動方法、化粧品などお金をかけて最上のものをそろえれば、ある程度の容姿の矯正は可能よ。
というか、公爵家の権力を使えば、逆に流行の方を捻じ曲げて、そこまででもない容姿をイケメンと周囲に誤認させることも可能なのよね。
まあでも、王立学園にもいるけれど、容姿が絶対! という人は少なからずいて、あれほど問題を起こした王子にも一定数のファンがいるわ。
「では、ローズマリー様が婚約者に求める要素って何なのでしょう?」
「そうねえ……私は次期公爵だから、事業の邪魔をしない、出しゃばってこないってのが当然あるわね。私と結婚すれば公爵になれるなんて勘違いしてる人も、事業を好き勝手にしようとする人もダメよ」
テイラー王国では女性でも爵位を継げるということになっているけれど、それでも結婚相手の男性を代理として、自分は子供を産むことに専念する人がいないわけではない。
でも、私はそんなのは嫌だし、本を作ることが公爵家の事業となったからには誰かに事業を好き勝手にされるのもゴメンよ。
「なるほど~」
「容姿は不快感がなければ良いけれど、不潔だったり怠惰だったりするのは嫌ね。そういう意味でも貴族らしい貴族がいいかしら?」
イケメンであれ! と思うほど容姿にこだわりはないけれど、体をきれいにしないとか、面倒だから着替えないとか、そういうのはゴメンよ。
私自身が嫌というのもあるけれど、公爵家という貴族の中でも頂点の家の婿が、そんなだと貴族全体がナメられるからね。
家に逆らわない、他家から迎えられたものは出しゃばらない、常に誰かに見られていることを意識する……これらは貴族の基本的な条件だから、そこら辺を考えても貴族らしい人がいいわね。
「確かに! そのくらいはやってくれないと困りますね!」
「その点でいえば王子殿下は2人とも失格よ。こちらの意見を聞かない。自分が他人にどう見られているか気にしていない」
ちなみに、ここは学園内のカフェで、ほかにも人がいるけれど、遠慮なく王子を批判するわ。
私が公爵令嬢ということもあるけれど、ほかの生徒に対して私が王子に興味がないということを示すためにも、こういう物言いが必要になる。
王子が私に興味がなければ必要ないけれど、復学した直後にこちらをチラチラ見るようでは未練がありそうだし、まだまだ絡まれそうだからね。




