51 不可解なテイラー王国(デビット視点)
「ふう、上手くいったな」
私の名前はデビット・ジョーンズ。ブラウン皇国の第四皇子をしている。
子供のころは文字を覚えるのが嫌いで、家庭教師に手を焼かせたものだが、テイラー王国から輸入した物語を読んでからは意識が一変した。
文字を覚えるだけで、こんなにも人生が豊かになるだなんて幼少期のころの私は知らなかったのだ。
「上手くいってなどいませんよ」
こいつは幼馴染兼従者のジョン・ケリー。小言が多くて、皇子である私にもズバズバ意見してくるが、こう見えて侯爵家の次男だ。
こいつは私は関係ありませんみたいな表情をしているが、私と同じで幼少期にテイラー王国の物語に触れてから本好きになっているので、目的は一緒だ。
「目的の1つはテイラー王国の本の輸入を増やすことだ。それはグラース公爵令嬢の提案でなんとかなりそうだろ?」
「たしかに留学前よりは状況は進みましたが、解決したわけではありません。皇家の代わって輸入させられるのか、輸入してくれる貴族家がいるのか、商会の設立許可が下りるのか」
「心配性だなぁ。その辺は父上や議会の承認が必要だから、こっちがヤキモキしても仕方がないだろう」
とはいうものの一刻も早く承認を得るために、留学生に与えられる屋敷に戻ってきたら即座に父上宛ての書状を書いているわけだけど。
交渉しているのは私だけれど、実際に輸入するか、輸入方法を変えるかの判断をするのは父上だから、なるべく早く結果を教えないとな。
「しかし、グラース公爵令嬢は本当に私たちと同じ年齢なのでしょうか? ああも解決策がポンポン出てくるなんて」
「確かに。父上や宰相だったら出来るのだろうけど、私たちと同じ年で解決策をいくつも出すのは難しいよな。……それに、気づいていたか?」
「何をです?」
「グラース公爵令嬢は私たちを見ても無反応だったぞ」
「は?」
自慢ではないが私もケリーも皇国では美男で通っていて、茶会や夜会に顔を出せば様々な女性に取り囲まれる。
もちろん皇家や侯爵家の権力目的という戦も考えられるが、第四皇子と次男では家を継げる可能性は少なく、単に美貌だけを求めているのだろう。
この国に来てからも私やケリーに見惚れる女性は多く見てきたし、グラース公爵令嬢が連れてきた女性2人も一瞬だが私たちに見惚れていた。
「私とケリーがそろっていたのに無反応なんておかしいだろ。少しは見惚れるなりなんなりするもんじゃないか?」
「……ああ、そういう。確かにグラース公爵令嬢は話の内容には興味津々でしたけど、私たちには興味がなさそうでしたね」
「自慢ではないが私は美男だ」
「いえいえ、皇族なのですから自慢していいですよ」
ま、皇族は国民が憧れる外見であることが望ましいとされているから、自慢ではあるか。
「では、自慢するが美男だ。テイラー王国の王子たちにも見劣りはしないだろう……なのに、グラース公爵令嬢は無反応」
「逆に見慣れているんじゃないですか? 公爵令嬢となれば王子と会う機会も多いでしょうし」
「うーん、そんなものか?」
確かにブラウン皇国でも、公爵家に連なる者は皇城によくやってきていたな。
それに兄上たちの婚約者のように皇族に慣れているものたちは、私やケリーを見ても過剰な反応はなかったかもしれない。
「しかし、テイラー王国全体で反応が鈍くないか? 教師から世話役を任された第二王子はともかく、ほとんど話しかけてくる学生がいなかったぞ?」
「……確かに。令嬢だけではなく、令息も話しかけてはきませんでしたね」
留学生として、事情を聞いたり、ブラウン皇国のことを聞いてくる学生はいたが、私たちのプライベートに踏み込んでくるような学生はいなかった。
普通、他国の皇族や貴族が留学生としてやってきたら、婚約者はいるのか? とか。恋人を探しに留学してきたのか? と聞くものじゃないか?
令息も令嬢も、そんなことには興味なしといった風情で、私たちに聞いてきたのはブラウン皇国での流行や特産物といったものばかりだった。
「少し調べる必要がありそうだな。テイラー王国は友好国とはいえ、これまでとは反応が違いすぎる」
「そうですね。グラース公爵令嬢だけなら、個人的な嗜好で美男が嫌いと考えるのですが、出会った学生の大半がそうだというなら原因が気になります」
別に外見で外交を行っているわけではないが、もしもテイラー王国で外見や権力が重視されていないのなら、婚姻外交などが成り立たなくなる可能性がある。
過去には外交の不手際を埋め合わせるために、皇族や上位貴族を嫁や婿に出すといった外交手段があったが、テイラー王国の価値観が変わっているのなら悪手にしかならない。
やれやれ。ブラウン皇国に本を増やすために留学してきたというのに、いろいろと問題がありそうだな。




