05 印刷された本発見
「~~~~~~~~~!!!」
エイミーに色々と本を取ってもらいながら読んでいると、外から騒がしい声が聞こえてきた。
だけど、私にとっては外の騒音よりも本の方が大事なので、そちらを優先させる。
「お嬢様、こちらは面白いですよ。他の本よりも薄いのです」
「どれどれ」
なるほど。他の本は羊皮紙で作られているけれど、この本は植物誌で出来ているみたい。
それに中の文字も印刷機を使っているようで、文字の大きさが統一されていて、人が書き写したとき特有の癖やかすれがほとんどない。
「中身自体は専門用語を解説している辞書のようですが、珍しいですね」
「これは紙の材質が違うわね。それに写本ではなく、印鑑のようなもので文字が押印されているみたい」
「……お嬢様、紙の材質はともかく、文字はなぜそう思われたのですか?」
「ほら、この文字。同じページや違うページにもあるけれど、どれも右下が欠けているでしょう? こっちの文字はどれも中央にかすれがあるし、人の手でこれだけ同じミスが続くのはおかしいし、印鑑に傷でもついたんじゃないかしら」
前世で昔の書物を読んだことがあるけれど、これと同じように文字のかすれが再現されていたり、筆記体の曲線がまったく一緒だったりしてすぐ印刷だと分かったものだ。
「……なるほど。確かに他の本とは違って文字が寸分たがわず同じですね」
「写本師の人は仕事がなくなるかもしれないけど、この手法が広まれば本が増えるかも」
「……いいえ、写本師は歓迎するでしょう」
「ん? どうして?」
写本師といえば、1冊の原本を人力でコピーすることで収入を得る職業だから、印刷のように大量に本が複製できる機会ができれば職を失うわよね?
「写本師……職業名は筆記師なのですが、元々は会議などの口述筆記を請け負う職業なのです。速記能力と正確な文字を残す能力が必要なので、写本も依頼されるとか」
「なるほど、道理ね」
「しかし、口述筆記を依頼する貴族の会議よりも写本の方が報酬は少ないので、難しい試験を通った筆記師には旨味の少ない依頼なのです」
は~、なるほどね~。原本を書いた人には覚えが良いかもしれないけど、それよりも貴族の覚えが良くなる方が旨味があるかぁ。
職業本にしろ神話にしろ、そう何冊も書き下ろすものでもないし、継続的な仕事としても貴族の会議を優先させるわよね。
「じゃあ、お父様にお願いしてこの辞書の出所を探ってもらおうかしら」
「……必要がありますか?」
「私ね、もっと本が世に広まってほしいのよ。こんなお堅い職業本や神話だけでなく、自分の半生を記した本や想像で作った本なんかをね」
「……そんなものを読む人がいるでしょうか?」
「少なくとも私は読みたいわ! だから、本の価格が下がってほしいし、簡単に本が作れる仕組みが欲しいのよ」
「……なるほど、わかりました。では、旦那様に伝えておきます」
「うん、よろしくね」
よしよし、これでこの世界に本が広まりやすくなるでしょう。
まあ、仕組みだけできても本が作られるとは限らないから、最初の方は自分で本を書く必要がありそうだけど。
とはいえ、前世のわたしはオタクゆえに投稿小説とかも書いていたから、もう少しこの世界の常識を学んだら原本を作ってみればいいわね。
「ごめんなさ~~~い」
そんな風にエイミーと話していると、外からまたも騒がしい声が聞こえてきた。
「……騒がしいわね」
「なんでしょうかね?」
さすがにエイミーも気になったのか、失礼します、と断りを入れてから廊下に様子を見に行った。
もちろん、私は読書続行よ。この厚さの本だと自室に持って帰って読むわけにもいかないから、なるべく書斎で読み切らないとね。
「失礼いたしました」
「あら、エイミー。なんだったの?」
「はい、今日から仕事に入ったメイドがミスをして騒いでいたようです」
「ミス?」
この屋敷は腐っても……いや、腐ってないけど公爵家の屋敷。
そこで働くメイドがミス? いや、ミスするのは良いけれど、ミスしたからってあんなに大声で騒ぐ?
「公爵家の寄子からの紹介だったのですが、どうも教育がなっていないようで」
「ああ、お父様が土地を管理させている貴族からの紹介ね。それにしても、教育がなっていないメイドを紹介するなんて、貴族をやめたいのかしら?」
公爵家の土地は膨大なので、直轄地として管理している土地以外は有能な家臣の一族や友好的な貴族に管理を任せている。
「平民だということですから、ある程度の教育はこちらで施したようですが、仕事に入るといきなり騒ぎ出したとのことです」
「ふーん。なら、そのメイド自身の素養かもね。まあ、お父様に報告を上げておいて」
「かしこまりました」




