04 この世界の本事情
とりあえず、私の婚約者に関しては両親に任せるとして、私はこの世界の知識を集めることを目標としよう。
もともとオタクだからライトノベルのような、この世界への順応性は高いけれど、それでも知らず知らずのうちに地雷を踏んでいる可能性はあるからね。
……というのは建前で、前世のわたしは一日でも本を手放せない活字中毒だったから、記憶が戻った今では本を手に持ってないと落ち着かないのよ。
「エイミー、屋敷には図書室はある?」
「図書室……ですか?」
「本が置いてある場所よ」
「ああ。それなら、旦那様の書斎にございますよ」
「私が入っても問題はないのよね?」
「はい。この屋敷内でお嬢様が入ってはいけない場所など存在しません」
ラノベの世界とかでは、貴族だから、子供だからという理由で自分が住んでいる場所なのに立ち入り禁止の場所があったりするけれど、この屋敷ではそういうことはないらしい。
ま、専属侍女であるエイミーが一緒にいないとダメだろうけどね。
「ここ?」
「はい、扉を開けますね」
エイミーが扉を開けてくれると、そこには6畳くらいの部屋があり、両脇の壁には一面の書棚、奥には革張りの椅子と重厚なデスクが用意されている。
デスクの上には書見台というか、本が読みやすいように斜めになっている木の台が置いてあるので、前世とは違ってハードカバーの本がメインなのだろう。
「エイミー、どんな本があるか教えてくれる?」
私の侍女をしているけれど、エイミーは子爵家の令嬢で学園にも通っていたから、もちろん字が読める。
「はい、こちらから見て右側にあるのが神話の本、左側にあるのが職業に関する本です」
ふむふむ、扉から見て右側が神話、左側が職業関係の本。
「他には?」
「……他ですか?」
「そう。子供向けの絵本とか小説とか……なんだったら自叙伝とか紀行文でもいいよ?」
「どれもこれも聞いたことのないジャンルですが、この国では本といえば神話か職業に関するものだけですよ」
「えっ!? それしかないの!?」
「そうですね。……あと、本と言えるかどうかはわかりませんが、地図や図鑑、古代語や隣国の辞書はありますね。どれもこれも高価なので、こちらにはないと思いますが」
は~!? 神話か職業の本しかない!? なんで!? 小説とかはともかく、自叙伝とかのノンフィクション本もないの!?
「……じゃあ、簡単そうな神話と職業本を1冊ずつ持ってきてくれる?」
「はい、お嬢様はそちらのデスクでお待ちください」
エイミーが見繕ってくれている間に、私は革張りの椅子の上に膝立ちになる。
この体は5歳なので、流石に普通に座った状態では重厚なデスクの上まで視線が届かない。
「まずは神話ですね」
エイミーが用意してくれた神話の本は前世で見たことのある辞書並に厚いものではあったけれど、どうも1枚1枚の紙が厚いようだからページ数は少なそうだ。
表紙は厚めの皮、中身は羊皮紙となっているようだから、この世界では植物で作った紙の本は存在しないのか、それとも高価なのかのどちらかだろう。
パラパラとめくりながら読んでみるけれど、神話だからといって私が読めないような文字は使われていないから読むのには問題ないけれど、挿絵もないらしい。
「なるほどね~」
内容としてはこの世界を作った神様を中心に、そこから派生したあらゆる神様のお話がそろっているものらしい。
職業本の方もパラパラとめくってみるけれど、装丁自体は神話と同じで、中身は職業の説明というよりもマニュアル本のようだ。
エイミーが持ってきてくれたのは文官に関するものだけれど、挨拶から始まり、頻繁に利用する法令、隣国とのやり取りで使用される言葉などが載っている。
「ふむふむ、こういう感じね~」
「……お嬢様、理解できるのですか?」
「神話はだいたい。職業の方はどんな場面で使うかはわからないけれど、内容自体は理解できるよ?」
前世でも神話関係の本は読んでいたから、なんとなく想像がつくけれど、職業の方は内容が分かってもどんな場面で使うのかはわからない。
ライライの繁殖が盛んだった場合には、護岸工事の指示をすること、とかあるけど、ライライって何?
前後の内容から魚の名前だろうけど、こういうこの世界独特の単語が良くわからないのよね。
「……お嬢様、こちらは学園入学直前の人でも、わからないということがある内容なのですよ?」
「そうなの? 習った単語ばかりだけど……家庭教師の方が張り切っているのかしら?」
公爵家の令嬢だし、既に家庭教師からマナーやら文字やら計算やらを習っているけれど、エイミーが持ってきてくれた本は習っている内容でわかる範囲だった。
わからないのは固有名詞ばかりなので、なんとなくそういうものなのだろうと予想して読み進めることができるのよね。




