03 両親の事情
「ローズマリーの他に子供を作るつもりはない」
「あなた、きちんと説明してあげてください……ローズマリー、そうではないの」
お父様のきっぱりとした断言に反して、お母様は言いにくそうにしている。
確かにお父様の子供を作らないというのは貴族としてどうかと思うけれど、そこまで慌てることかしら?
「実はね……私は子供を作ることができないの」
「……え?」
お母様の言葉に驚く……子供が作れない? でも、私はこうして、ここにいる。
「違うぞ、ローズマリー。ローズマリーはきちんと私とレベッカの子供だ」
いや、お父様。そこを心配してはいませんでしたよ。
「私を産んだときに、何かあったのですね?」
「「……………………」」
両親は二人して黙ってしまったけれど、その沈黙が何よりも物語っている。詳細はわからないけれど、私を産んだときに何かがあり、それでお母様は生殖能力を失ったのだ。
「だから、ローズマリーの弟や妹を私が産むことはできないのよ」
「同じことだ。私はレベッカ以外を愛するつもりはないからな!」
「あなた!」
「おまえ!」
両親がお互いの言葉を引き金にイチャイチャしだしたので、私は極力視界に入れないようにする。
「……私が公爵家を継ぐ、ということでよろしいですね?」
「……む。まあ、そうなるか」
「でしたら、やはり王子殿下と結婚するというのは無理でしょう。王子殿下は二人しかいないと聞いていますので、どちらも王城からは離せないでしょう」
「確かに考えてみたらそうね。……でも、ローズマリー。女の子なら王子様と結婚を夢見るものではない?」
「人によるかと。私はお父様とお母様のように、お互いを支えあえるような方と結婚したいです」
女の子は王子との結婚を夢見るものという考え方もわからないでもないけれど、前世で32年も生きていれば、そんな幻想は吹き飛んでいる。
中学校や高校でイケメンだった男子たちも同窓会で再会したら、頭髪が薄くなっていたり、お腹が出ていたりで昔の面影が無くなっていたし、容姿は重要視できない。
王子といえばお金持ちというイメージもあるけれど、そもそも公爵家がこの国有数の資産を保有しているから、金銭面でも魅力を感じない。
というわけで、イケメンでお金持ちってイメージのある王子は、私にとっては魅力的でない人物となっている。
それに公爵を継ぐのが私である以上、権力を行使することに慣れている上位者は厄介以外の何物でもない。
私の考えとは違う命令を勝手に出したり、王城とつながって私から権力を奪い取ろうとするかもしれないからね。
「ふむ、我々のような……」
「確かに、長い人生を共にするのだから波長の合う人の方が大事よね」
「ですので、くれぐれも王子殿下との縁組は考えないでください。権力欲が薄く、公爵となる私を支えるのに喜びを見出すような、そんな方を婚約者候補にしていただけるとありがたいです」
イケメンよりも性格! お金持ちよりも人柄! これこそが、物語の世界かもしれないこの世界で私が平穏無事に生き残るための合言葉だ。
ここがどんな世界で、私がどんな役割を持っているかはわからないけれど、ヒーローになりそうなイケメンやお金持ちに近づかなければ、ヒロインにも悪役令嬢にもならないだろう。
「しかし、ローズマリーの年で婚約者は早いだろう」
「あなただって、同じ年のころに婚約者がいたでしょう?」
難色を示すお父様に対して、お母様がたしなめる。それにしても気になる話。
「お父様に婚約者? 私と同じ年からお父様とお母様は婚約していたのですか?」
「あら、ローズマリー。違うのよ。ジェイソンは最初から私と婚約していたわけではないの」
そうなんだ。まだ若いとはいえ、私がいるのにラブラブだから子供のころから婚約していたのだと思っていた。
「その時の婚約者はどうなさったのですか?」
「うっ……真実の愛を見つけたとか言って、護衛騎士と駆け落ちしていったよ」
「……はっ!?」
「私もジェイソンから初めて聞いた時は驚いたわ。公爵家の跡取りで、こんなにかっこいいジェイソンを捨てて護衛騎士と駆け落ちする令嬢がいるなんて」
「その後に学園で出会ったレベッカと仲良くなって、婚約したんだ」
は~、ライトノベルみたいな話。
「えーと、その元婚約者さんのその後は?」
「数年前に屋敷に押しかけてきて婚約を戻そうと言ってきたけれど、その頃にはレベッカと結婚していたし、ローズマリーもいたから丁重にお断りしたよ」
うわー、うわー。やっぱり、そういうことが起きる世界なんだ!
「揉めたりはしなかったのですか?」
「そもそも彼女は王立学園を卒業していないから貴族として認められていないのだよ。もともと、親が決めた婚約で私に思い入れはなかったしね」
はー、私も同じ目に合わないように気を付けないとな~。




