48 デビットの留学理由
「こちらは、私の幼馴染兼従者のジョン・ケリー。ブラウン皇国にあるケリー侯爵家の次男ですよ」
「よろしくお願いします」
「あら、ご丁寧に。こちらはグレイス・オルセンとマリア・ウェザリー。私のお友達ですわ」
「グレイス・オルセンです。オルセン侯爵家の長女ですわ」
「マリア・ウェザリーです。ウェザリー伯爵家の次女です」
第二王子の視線がうざったいのと、教室の中で長々と話していると目立つので、私とデビット第四皇子は、それぞれの知り合いを誘ってカフェへとやってきた。
デビット第四皇子は従者のケリー侯爵令息を、私はグレイスとマリアを誘ったわ。
周囲にはそれぞれの使用人たちが控えているから、人数としてはそれ以上だけどね。
「留学当日だというのに、デビット様が急にお声がけして申し訳ありません」
それぞれの紹介が終わると、ケリー侯爵令息が謝罪してきた。
「おい、それだと私が非常識みたいじゃないか?」
「非常識ですよ、デビット様。普通、他家のご令嬢と知り合う際には、お家の方にアポを取って、それから出会いの場をセッティングするものなのですよ」
「だが、皇国では他家の令嬢が私に向かって突撃してくるのが日常だったぞ?」
「……デビット様。どうか皇国の恥部を他国にさらさないでください」
ふふ、漫才みたいで面白いわね。テイラー王国では王子2人が醜態をさらしたから王子に突撃するような令嬢は少ないけれど、ブラウン皇国では皇子は羨望の対象なのね。
「ケリー侯爵令息様、こちらは気にしていませんので大丈夫ですよ」
「そう言っていただけると助かります」
別に気にしていないということはないけれど、ブラウン皇国との交流を考えると目くじらを立てて責めるというものでもないしね。
「しかし、Aクラスの中でも私に声をかけたのは不思議です。第二王子殿下もそうですが、Aクラスの中には私よりも国益にかなう公爵家の者もおりますのに」
グラース公爵家は確かに王国の中でも上位に入る公爵家だけれど、それでも王家はもちろん、公爵家の中でもトップというわけではない。
というのも、グラース公爵領は王国の食料を安定させるのが目的の公爵家で、鉱山があるわけでもなければ、隣国との通商に必要な物品を作っているわけでもないので、重要度は下がるのよね。
「もちろん、グラース公爵家が本の販売を行っているからですよ」
当然の疑問のはずだったのに、デビット第四皇子は当然と言わんばかりの笑顔で返してくる。
「本……ですか?」
グラース公爵家が販売している本と言えば、私が作り始めた物語系の本しかないわね。
確かにブラウン皇国を含む隣国にも本の販売を行っているけれど、販売数は国内とは比べ物にならないくらい少ないし、それ目当てで留学してくるなんて信じられない。
「ええ、グラース公爵家が販売している本は素晴らしいです。私は、皇族でありながら幼少期は文字の読み書きが苦手でしたが、グラース公爵家が販売している本で文字が得意になったのですよ」
「ふふ、ありがとうございます。確かにテイラー王国でも、物語から本が好きになったという貴族は多いですわね」
マリアの方をチラっと見ると、恥ずかしそうに顔を伏せている……マリアも私が作った本を読んでから、物語の面白さに気づいたって言っていたものね。
「しかし、不満もあります」
「あら、不満?」
「はい。テイラー王国に入国してから少し調べましたが、ブラウン皇国に入ってくるグラース公爵家の本は不当に高価なのです」
「ああ、そういうこと」
「確かに他国に輸出すると考えると、輸送費などで高額になることは理解できるのですが、それにしても高価すぎる」
「デビット第四皇子殿下。それは輸送費が上乗せされているから高価なのでも、他国だから足元を見て高価にしているわけでもないのです」
「ほう? 何か理由があると?」
「ええ。テイラー王国ではグラース公爵家が販売する本は写本を禁じているのです。これは王国法に新たに記載されたもので、写本によって利益を得た者は貴族であっても罰せられることになっています」
「写本が禁止?」
「はい。ですので、販売価格を下げているのです……しかし、他国となれば、そういうわけにもいきません。写本が禁止と通達しても守られる確信はないですし、強要することもできません」
「まあ、そうですね」
「したがって、他国には写本を許容する代わりに販売価格を上げさせてもらっているのです」
というか、そうしないと他国に輸出なんてできない。ただでさえ、国内でも流通量を増やすようにと要請されているのに、他国の分まで印刷するなんて完全にキャパシティオーバーだ。
ちなみに、販売価格を上げた分はきちんと作者に還元しているので、他国に輸出するのが嫌だという作家にはまだ出会ったことがない。




