46 王子と留学生
「本日よりロバート第二王子殿下が復学なされる。入学式の直後に休学となったために、知らない者もいると思うので自己紹介をさせる」
「ロバート・テイラーだ。権力を振りかざすつもりはないから、気楽に接してくれ。……あと、入学式直後や休学中に迷惑をかけた者がいるようだ。すまなかった」
知らない者もいる、という教師の言葉には、そんな奴いねーだろ! と思ったけれど、幼少期のお茶会に呼ばれなかった人もクラス内に入るので、上位者の紹介は必要か。
前世では生まれの上下は、そこまでなかったけれど、この世界では下位の貴族は上位の貴族の許しなしには声をかけることすらできないので、授業が始まる前に上位貴族が許しを与える挨拶が存在する。
それは大人でも同じで、例えば会議などが始まる前には最上位の貴族から「会議中は不敬を問わないので忌憚のない意見を出すように」などの宣言があるらしいわ。
「ああ。あと、本日より隣国からの留学生を受け入れることとなっている。現在は手続き中なので、昼休み後に紹介する。なお、世話役はロバート第二王子に頼んであるので、留学生から頼まれない限りはちょっかいをかけないように」
ああ、やっぱり留学生が来るから王子たちを復学させたのね。ま、そうでなければ、外聞が悪いなどという理由で王子たちを復学させることはないものね。
ちなみに、留学生にちょっかいを出さないようにとの連絡がきたけれど、そもそもAクラスの人間で留学生に興味を持つ人はいないでしょう。
Aクラスにいるのは上位貴族ばかりで、国を栄えさせることを至上命題として教育されているし、家を継ぐにしろ継がないにしろ留学生と懇意にする理由がない。
嫁ぎ先によって格が変わる下位貴族や、隣国との通商を考えなければならない王族ならともかく、上位貴族にはメリットがないのだ。
ま、教師が第二王子に任せたと言っているのだから、極力関わらないようにしましょう。
留学生が自称・主人公、あるいは自称・主人公が狙う人物だったりしたら、また絡まれそうだしね。
「では、授業を始めるぞ。Aクラスの人間は全員が理解している内容だから、態度が悪くても良いが、騒いだりほかの人に迷惑をかける行動は慎めよ」
いつものように教師がお決まりのフレーズを言うけれど、留学生がやってきてもその態度を貫くのかしら?
ああ。あと、第二王子に関しては、こちらをチラチラと見てくるけれど、完全に無視を決め込んでいるわ。
私とのイザコザを知っている教師が席を離してくれたから助かっているけれど、休み時間になったら突撃でもしてきそう……憂鬱ね。
――――――
「ローズマリー様、お疲れですね」
「……ええ。結局、接触はなかったけれど、第二王子殿下の動向がね」
「ローズマリー様の方をチラチラと見ていましたね!」
現在はお昼休憩。授業中や休憩中も第二王子は、こちらをチラチラ見ていたけれど、結局話しかけてくることはなかった。
「ローズマリー様から見て、第二王子殿下は合格ですか?」
「ギリギリね。入学式のことはなかったこととして、こちらを気にもかけないのが最上だけれど」
私個人に対する謝罪ではなく、クラス全員に迷惑をかけたとしての謝罪。チラチラ見ては来るけど、話しかけてはこない。
最上には程遠いけれど、陛下や再教育に当たった教師に厳しく言われているのだろう。私に接触をしてこないだけ、まだマシだ。
「ま、第二王子殿下に関しては、これからの学校生活で見極めるわ」
王族として敬うかどうか。もしも、第二王子が……第一王子もだけれど……陛下や再教育を無視して私に接触してくるようなら、お父様だけでなく私も愛妾の子供を王位につけるために動かないと。
この世界がゲームや小説の中なのか、それとも現実なのかは未だに判断がつかないけれど、個人の感情を優先させて国益を考えないなんて次期国王失格だからね。
「それよりも問題は留学生ね」
「「……留学生、ですか?」」
あらあら、グレイスもマリアも仲がいいわね。完全にハモったわ。
「隣国からの留学生……王家と繋ぎを持つためならいいけれど、目的がわからないわ」
留学生となれば、普通は最先端の学術を学びに……となるけれど、この国は魔術が発達しているので他の国の人間が学びに来る価値がない。
というのも、隣国には魔術が使える人間が少なく、この国のように防護壁を発生させるような魔導具もないのよ。
だから、わざわざ留学してまで教育を受ける価値はない。本当に何を目的とした留学なのかしら?
「うーん、農業? も隣国と変わらないですよね?」
「あ! あれじゃないですか? ローズマリー様を見に来るんですよ!」
グレイスはわからないといった風だったけれど、マリアの方は天啓を得たりとでも言いたそうに断言する。
「私?」
「そうです! なんといっても、この国でこんなに流行っている本を作り出した人ですもの! 留学してでも見る価値があるじゃないですか!」
「確かにそうですわね」
「もう! マリアもグレイスもからかわないの。それに本は私だけでなく、お父様やスペンサー子爵の協力あってのものよ」




