45 王子殿下の復学
「そういえば、お聞きになりましたか? 来週から王子殿下が復学するそうですよ」
マリアとの話を静かに聞いていたグレイスだけれど、話が落ち着いたことを確認してから別の話題を振ってくれる。
まあ、マリアも考える時間が必要だから、今日はこれ以上は話さなくてもよさそうね。
「ええ、教師から聞きましたよ。王宮の教師もこれ以上の教育はできないし、そもそも王子殿下が長期間休学しているのは外聞が悪いとのことだそうですよ」
ま、あんな事件を起こして休学している時点で外聞も何もあったものじゃないと思うけど。
「……ええと、ローズマリー様は大丈夫なのですか?」
「私ですか? まあ、復学後の態度次第ですが、同じようなことを繰り返さなければ問題ありませんわ」
そもそも、子供の時のお茶会ですでにやらかしている王子たちなので、期待も持っていない。こちらとしては絡まないでくれれば、それでいいんだけれどね。
「王子殿下が復学したら謝罪を求めるのですか?」
「いいえ、謝罪など求めませんよ」
「ローズマリー様は被害者なのですから、王家といえど謝罪させていいと思います!」
あらあら、原稿のことで悩んでいたマリアだけれど、私のこととなると復活するのね。
「いいえ、マリア。むしろ謝罪などしてきたら、王宮での教育がムダだったということで、陛下に上申しますわ」
「「えっ!?」」
「だって、謝罪するということは、臣下である私は許さなければならないということでしょう? こちらは王子殿下と関わりたくないのに、謝罪などしたら関わらなければならないではないですか」
爵位が下の者が謝罪する場合には許すか許さないかは被害者が決めていいが、爵位が上の者の謝罪は問答無用で許さなけらばならない。
許されたとなれば、そのことについてはなかったことになるので、向こうが私に好意を持っていても通常の範疇で対応を迫られる……なんて罰ゲーム?
私としては婚約者の対象にならない王子なんて王立学園で関わりたくない人でしかないので、これ以上は関わってこないでほしいのよね。
「あ~、そうなるのですね~」
「考えもつきませんでしたわ」
「ふふ、当事者じゃないとわからないものだものね。それに王族からの謝罪なんて普通は引き出せないものだし、謝罪が見たいという気持ちもわかるわ」
他国の上位貴族や王族相手ならともかく、国内向けだと王族にもっとも近い公爵相手ですら王族は謝罪しないからね。
それが権威ってものだけど、そんな王族が公爵令嬢である私に謝罪している姿を見たいというのは、人として当たり前の考えだろう。
「そんなこと!」
「ローズマリー様の仰る通り、王子殿下の謝罪を見たいという気持ちはありますわ。なにせ、殿下たちはローズマリー様の気持ちも考えずに一方的に迫ったのですから。ですが、ローズマリー様が謝罪されたくないというのなら、こちらも何も言いませんわ」
マリアは感情的になってしまったけれど、グレイスは侯爵令嬢だけあって、こちらの考えにも同意してくれた。
「ふふ、二人ともありがとう。まあ、王子殿下に関しては実際に復学してからね」
「そうですね。あの時はローズマリー様と仲良くなっていませんでしたけれど、今は私たちがいますから安心してください」
「お守りします!」
「あらあら、頼もしいわね。……しかし、気になるのは王子殿下が復学するのが外聞が悪いということになっていることね」
「おかしいですか?」
「王子殿下たちの評価は地に落ちているのだから、今さら外聞をどうこうなんておかしいでしょう?」
「うーん、確かに?」
「そうですわね。学生である私たちはもちろん、父に聞いたところ親世代でも王子殿下の評価は低いようですから」
上位貴族と下位貴族の狭間にいる伯爵令嬢であるマリアはピンとこないようだけれど、上位貴族である侯爵令嬢のグレイスはピンと来たようだ。
そうなのよね。学生だけではなく親世代でも二度のやらかしが広まっていて、王子殿下の評価はダダ下がり。
グラース公爵家の派閥ではないけれど、他派閥からは愛妾を正妃に据えて現在の王子を廃嫡しろという意見も出ているわ……あ、愛妾はお茶会後に上位貴族が陛下に談判して迎えさせて、今は5歳の子供がいるそうよ。
「だから、外聞が悪いという理由で復学させるのはおかしいのよ」
「そうですわね」
「そう……なのですか?」
「外聞を機にするとしたら国内貴族ではなく国外……もしかしたら、外国から留学生が来るのかもしれないわ」
「まさか!」
「外国から……あり得るのでしょうか?」
「お父様に聞いたところ、陛下の代には留学生がやってきていたそうだから、王子殿下の代に留学生がやってきてもおかしくはないそうよ」
外国からの留学生……何もなければいいけれど、これまでのように勘違いした自称主人公が暴走しそうな案件よね。
私としては、巻き込まれないようにしないと。




