43 マリアからのお願い
「素晴らしかったですわ、ローズマリー様」
「本当に! 男の子がやってきたときにはどうなるかと思いましたけど、華麗に撃退しましたね!」
ウォード男爵令息がすごすごと帰って行った後に、グレイスとマリアが私をほめてくれる。
「ふふ、ありがとう。でも、私のせいで2人にも迷惑をかけたわね。ウォード男爵令息も、あらかじめアポイントメントを取ってくれればよかったのに……」
男爵令息が公爵令嬢である私に迷惑をかけたのも問題だけれど、侯爵令嬢であるグレイス、伯爵令嬢であるマリアを巻き込んだのも問題だろう。
子供がしたことだから、ウォード男爵家に対して即時取引停止とはならないけれど、これから取引先を考えるときにはウォード男爵家は除外されることが増えるでしょうね。
子供とはいえ貴族なのだから、そういった家同士のつながりを考えて行動しないと、自分の首を絞めるだけだというのに。
「それにしても、やはり全ての原稿が本になるわけではありませんのね」
「ええ、幸いなことに公爵家には本にしきれないほどの原稿が送られてきているのですけれど、問題がある原稿は本にはできません」
「問題というと、先ほどのウォード男爵令息に言っていたようなことですか?」
「実在の人物を無許可で使うこと、特定の誰かを貶める内容、過激な表現があるもの、これらは文章がどれほど素晴らしくても本にはできません」
本人が責任をもって本にするのならともかく、グラース公爵家の事業となっている以上、本に対するクレームはグラース公爵家にくる。
言いがかりだったり、受け取り方の問題だったりした場合には、公爵家としての権力を使ったり、話し合うことで解決する場合もある。
でも、そもそも原稿の段階で他者を傷つける内容になっていた場合には、いくら公爵家でも擁護することは不可能だからね。
「なるほど。私の知り合いにも本にならなかったという方がいらっしゃいましたから、気になっていたのです」
そう言うのはグレイス。オルセン侯爵家からは原稿が届いたことはなかったけれど、寄子だったり周辺の貴族から聞いたのかな?
「まあ、それ以前に本にできる文章になっていない、という場合もありますわ。場面の転換が唐突で読んでもわからなかったり、説明のない登場人物が無数に現れたり……まあ、いろいろです」
「原稿はローズマリー様が全て見ているのですか?」
「ふふ、私もなるべく目を通すようにしているけれど、グラース公爵家で新設した事業部が審査しているわ。1つの原稿に対して複数人が審査して、本にするかどうかを検討しているわ」
はじめのうちは私だけで原稿の審査をしていたけれど、送られてくる原稿が増えるにつれて、それでは間に合わなくなっていった。
そこで、本が好きだという使用人を中心に事業部を設立、私とお父様が話し合って本にする基準を設けて、それに沿った審査をしてもらっているわ。
ま、読書は私の趣味だから、私もできる限りの原稿に目を通しているけれどね。
「……ローズマリー様。やはり、本になるにはハッピーエンドでなくてはいけませんよね?」
「あら、マリア。どうしたの?」
「私……私も物語を書いているのですけれど、どうしても本のように主人公が幸せになるお話にならないんです」
私の目の前で、おずおずとマリアが話し始める。確かに、グラース公爵家で作られている本はハッピーエンドばかりだ。
というのも、そもそも私が書けるのがハッピーエンドのお話だけで、その話を参考に書かれた恋愛物語は自然とハッピーエンドばかりになってしまうのよね。
伝承や寝物語にはホラーエンドだったり、バッドエンドだったりするものもあるけれど、貴族女性に伝わっているのは恋愛物語が中心だから、ハッピーエンドじゃないと本にならないと勘違いされているのかしら?
「マリア。恋愛物語は確かにハッピーエンドが多いけれど、そうでなくても本になる可能性はあるわ……もしも、マリアが問題ないなら私に読ませてもらえないかしら?」
ハッピーエンドじゃなくても本にできる! と言いたいところだけど、実際に原稿を読んでみないと、本にできるかどうかはわからない。
ま、私がハッピーエンド以外の物語を読んでみたいというのも、ないわけじゃないけどね。
「ローズマリー様に私の書いた原稿を読んでいただくのですか!?」
「ふふ、おかしなことを。本の作成事業はグラース公爵家の事業なのだから、次期公爵である私が読むのは当然でしょう?」
「そ、それはそうですが」
「それとも、私に読まれるのは嫌? お友達だからといって忖度はできないけれど、公平に評価するわよ?」
「うっ…………お願いします。私の原稿が本にできるのか、それとも無理なのか。それが知りたいです」
「ふふ、じゃあ次期グラース公爵として、公平に読まさせてもらうわね」
よし! これで、ハッピーエンド以外の物語が読めるわ!
正直、恋愛系の話は主人公とヒーローがくっついて幸せになる話ばかりで飽きが来ていたのよね。




