41 学園での交流
あの大騒ぎの放課後から数日、教師からメアリー・ブラウンという少女が休学になったと聞かされた。
本来なら個人情報にあたるから伝えることはないけれど、Aクラスの人間のほとんどがメアリー・ブラウンが起こした騒動に巻き込まれていたからね。
あの後、学園長がメアリー・ブラウンに、王宮の方でも陛下が第二王子に聞き取りをしたことで、第二王子の恋人というのは妄言だったと判明したらしいわ。
メアリー・ブラウンは第二王子と入学式の後に出会ったと話しているらしいけれど、入学式の後は私に関する騒動があって、その直後に王宮に連れ帰られていたからありえない。
また、第二王子からはメアリー・ブラウンなる少女は名前も顔も知らない、もちろん入学前にも交流はないと断言されたそうよ。
第二王子がメアリー・ブラウンを切り捨てたという可能性もあるけれど、時系列と証言を鑑みると異世界転生者であるメアリー・ブラウンの独断専行ね。
「ローズマリー様、今はどんな本を作っているのですか?」
「私も気になります! 実家はグラース公爵家とは別派閥なので、情報が入ってこないのです」
「あらあら、本の作成スケジュールは機密なのよ」
Aクラスの中でも特に仲良くなったのが、目の前にいるグレイスとマリア。
グレイスはオルセン侯爵家の令嬢で、ふわっとした容姿をしている。マリアはウェザリー伯爵家の令嬢で、こちらは活発な印象がある。
どちらも幼少期に私の作った本で、物語の楽しさを知ったということで、グラース公爵家の派閥ではないものの、新作が出ると必ずと言っていいほど購入してくれているのよね。
「でもでも、気になるんです!」
「そうですわ。……でも、ローズマリー様が学園にいる間は新しい本の作成も難しいのかしら?」
「ええっ!? それは困ります!」
グレイスの言葉にマリアが驚いているけれど、本の作成事業を私が主導していることは貴族の間で広まっているから、その心配ももっともだろう。
「ふふ、2人とも本当に本が好きなのですね。安心してください、私が学園に在籍している間は、父が事業を主導してくれることになっているのです」
「そうなのですか?」
「じゃあじゃあ、新しい本ができるんですね!」
「ええ、幸いにも本にしたいという原稿が王国各地から届いていますから、私があらかじめ選定しておいた原稿の中から新しい本を順次作っているわ」
私が本を作り始めた時は私以外に本を作ろうとする人はいなかったけれど、お茶会などで根気強く本が欲しいのなら自分で書くしかないということを伝え続けた結果、今では王国各地から原稿が届く。
もちろん、文章が拙いものや特定の誰かを貶めるもの、ほかの本のストーリーをなぞって人物名だけ変えているものなどもあるので、選定はさせてもらっているけどね。
ま、王国各地からとはいうものの、やっぱり公爵家に勤めている人や、作家として雇った人が作る原稿が一番多いのだけど。
「グラース公爵令嬢ですか?」
そんな風にカフェテリアで2人とおしゃべりをしていると、急に1人の少年がテーブルに近寄ってきて話しかけてきた。
Aクラスでは見かけたことがないから、Bクラス、あるいは上級生ということになるけれど、突然話しかけてきたことから考えてもBクラスの子ね。
上級生はマナーの教育を十分に受けているので、公爵令嬢である私に対して突然話しかけるようなマナー違反は犯さない。
「どちらさまでしょう?」
マナー違反の行動だから無視しても構わないのだけれど、マナーのわかっていない下位貴族、それも私と同い年の子供だと、逆上して乱暴する可能性もあるから、応対はしてあげる。
「あっ……失礼しました。俺……私はジャック・ウォード。ウォード男爵家のものです」
私はもちろんだけれど、グレイスとマリアも無礼な闖入者に対してにらみつけていたから、慌てて少年……ウォード男爵令息は名乗りを上げた。
「そう。ウォード男爵令息ね。お察しの通り、私はグラース公爵令嬢よ。本来なら話も聞かないのだけれど、今回は特別に話を聞いてあげるわ」
「……名乗らなかったのは悪いと思うが、普通は話を聞かないって」
「あたりまえでしょう? 貴方は男爵令息、私は公爵令嬢。貴族のマナーでは下位の者は上位の者から許されるまで、話しかけてはいけないのよ」
「なっ! なんだよ、それ! じゃあ、俺はいつまでたっても話しかけられないじゃないかっ!」
「あら、乱暴な言葉遣いね。上位の者に話を聞いてほしければ、手紙でアポイントを取るなり、使用人に話したい内容を伝えてもらうなりするのよ。上位の者が話を聞く価値があると思えば、声をかけるわ」
まったく、なんで私が男爵令息にマナーを教えているのかしら? 教師はいったい何を教えているの?
でもまあ、カフェテリアには他にも新入生の下位貴族がいるし、トラブルを避けるためにも普通のマナーを明言しておくことも重要でしょう。




