39 勘違いしている物語
Aクラスにやってきた少女……メアリー・ブラウンが第二王子との恋愛関係をほのめかしているけれど、それで思い出したのが前世で読んだ1つの物語。
「春のようなキミに恋する」という乙女ゲームで、あまりの人気からアニメ化までされた作品よ。
主人公のメアリー・ブラウンは王立学園で、第二王子であるロバート・テイラーを始め、様々なヒーローたちと恋するというお話。
ヒーローである第二王子がロバート・テイラー、物語の舞台がテイラー王国と、この世界と類似点が多いから、私は最初、この世界が「春のようなキミに恋する」……通称春キミの世界だと思ったのよね。
悪役令嬢には名前がなく公爵令嬢となっていて、確証がなかったけれど、その悪役令嬢も主人公とヒーローに殺されるという末路だから警戒していたのよね。
ただし、私は早い段階で、この世界と春キミの世界は全く違うと結論付けている。
まず第一に、この世界……というか、この国では魔術が発展していて、生活の要所に魔導具を利用している。
春キミでは、魔術という言葉はなく魔法が発展している。王立学園でも魔法を習い、主人公は貴重な光属性の聖女として世界を救うというストーリーライン。
この時点で春キミとは違う世界というのがわかるけれど、よくよく調べてみれば第二王子であるロバート以外には攻略対象が存在しなかったというのも大きい。
というわけで、あの少女が自分を主人公のように語っているのは大間違い。この学年で公爵令嬢は私1人だけだけど、少女が言う王子をたぶらかす婚約者などではないということ!
そもそも、あの子。春キミのストーリーをきちんと把握しているのかしら? 私だったら、春キミの世界の主人公に生まれ変わっても、絶対に主人公らしい行動なんてとらないわ。
なぜかというと、春キミでは第1章で主人公が王立学園に入学し、攻略対象と一緒に努力したり恋愛したりする普通の乙女ゲームなのだけど、第2章ではガラッと内容が変わる。
世界にはびこる瘴気を払うために聖女である主人公と、恋愛関係になった攻略対象は世界中を冒険してモンスターを倒す旅を始めるRPGに内容が変わる。
そしてエンディングでは主人公は世界を見守るために世界樹と同化して死ぬ。エンディング後のスチルではエンドを迎えた攻略対象が主人公が産んだ子供を抱えて世界樹を見上げているのよ。
いわゆるメリーバッドエンド。世界と愛する攻略対象のために身を捧げる主人公……好きな人は好きなんだろうけど、わたしは好きになれなかったお話ね。
そういえば、春キミはアニメ化されたけれど、それは第1章の内容だけ……アニメを見てファンになった人が乙女ゲームをプレイしたことで、ネット上は大荒れ。
評判が駄々下がりして第2章のアニメ化はとん挫したって聞いたけど、もしかしてアニメしか見てないってことはないわよね?
「キミか。Aクラスで騒いでいるという子は。入学式の直後にも説明したが、Bクラスの者は基本的にAクラスへの立ち入りは禁止だ」
おっと、物語のことを考えていたら、教師がやってきて少女に説教を始めてしまったわ。
おそらく誰かの使用人が迎えに来た時に騒いでいる少女に気づいて、教師を呼んできてくれたのね。
「先生っ! でも、私の恋人であるロバート様を誘惑する人がこのクラスにいるんです!」
「はっ!? ……ロバート様というのは、まさかとは思うが、第二王子殿下のことを言っているのではないだろうな?」
「はい? そうですよ。私の恋人は第二王子のロバート様です」
少女は胸を張っているけれど、生徒間ならともかく教師に対してそれを宣言することの危うさをわかっていないわね。
私たちは入学したばかりの12歳で、まだまだ成人には達していないけれど、教師は生徒を教育する必要があるから、問題発言をした場合には調査する権限を得る。
この国の王族である第二王子の恋人を自称すれば、教師としては調査しないわけにはいかず、本当でも嘘でも少女は罰則を与えられるだろう。
「キミ……メアリー・ブラウンだね。少し話がある。指導室まで来なさい。……ここにいる人たちには、今日の話を誰かに伝えることを禁止する。破った場合には罰則を与えるので、家族・使用人・友人の別なく他言無用とするように」
教師は困惑している少女を引きずるように連れて行ったけれど、まあ他言無用は当然よね。
第二王子と少女が恋人同士でも王族のスキャンダルだし、少女が妄想に取りつかれているとしてもテイラー王国の貴族の質が問われる問題だからね。
まだまだ教育中の子供ではあるものの、貴族としての心構えは学んでいるから、Aクラスに在籍している人は理解しているでしょう。




