36 王の苦悩(国王視点)
「なんということをしてくれたんだっ!」
我はランス・テイラー。テイラー王国の国王なんぞをやっている。
目の前には我が息子であるエリックとロバートがいるが、我の言葉の意味が分からないのか、ぽかんとしている。
「どういうつもりかと聞いているのだ!」
重ねて問いかけるも、2人の息子は黙っている。……執務室ではなく、私室で問い詰めたが正解だったようだ。
執務室とは違って、私室には我の専属である護衛騎士と執事、それに家族しか入れないから、王子たちの不遜な態度も拡散されないだろう。
「……父上。父上は何をそんなに怒っているのですか?」
ようやく、といった感じで長男のエリックがおずおずと話し出した。
「なぜ、怒られているのかわからないのか?」
「はい。本日は王立学園の入学式に在校生代表として向かいましたが、それが終わってからすぐの呼び出しですので……」
「私もです。私も王立学園の入学式に参加し、戻って自室でくつろいでいたら急に呼び出されたので……」
「そうかそうか。お前たちは怒られる心当たりがないと、そう言うのか?」
「「はい」」
「バカもんが!! 緊急用の伝令魔導具でグラース公爵から苦情が来たのだぞっ! 王子2人が娘を婚約者候補と言ってなれなれしく接してくるが、どうなっているのか? とな!」
「「はっ?」」
この国は魔術で動く魔導具で生活が豊かになっているのだが、その中に領地間の伝令速度を上げる伝令魔導具が存在する。
通常は手紙か早馬での伝令なので、王都とグラース公爵領の間では数日から数週間は時間がかかるのだが、伝令魔導具を使えば瞬時に離れた者同士で会話ができる。
公爵曰く、入学式後に王子2人に娘が絡まれた。2人は娘を婚約者候補のように扱い、訂正を求めても名前で呼び捨てにしてきた、とのことだ。
「2人とも驚いておるようだが、事実無根なのか?」
一応、2人には確認しておく。とはいっても、その場にいた者に確認はすでにとってあり、2人がそんな非常識なことをしたとの報告は受けている。
「何を言っているのですか? 父上、ローズマリーは私の婚約者候補なのですから、そのように扱うのは当然でしょう?」
「兄上! 何を言っているのですかっ!? ローズマリーは私の婚約者候補です。兄上は引っ込んでいてくださいっ!」
はあぁ。弁明するのかと思えば、何を言っているんだ?
「2人とも落ち着け。なぜ、そのような判断になったのだ? お前たちの婚約者候補はまだ決まっていないだろう」
本来なら王子ということで、幼少期からふさわしい令嬢を婚約者候補、あるいは婚約者として据えるのだが、教育の遅れで2人には婚約者はおろか候補もいない。
7年前のお茶会で2人のマナーの悪さは同年代には知れ渡ってしまっているので、隣国か年下の令嬢から選ぼうと思っていたのだ。
もちろん、あのお茶会での実質的な被害者であったグラース公爵令嬢が婚約者候補になるはずはなく、2人がどうしてそう考えているのかが不思議だ。
「ですが、母上がローズマリーは私の婚約者になると!」
「そうですよ! ローズマリーを娶れば王位につけると!」
また王妃かっ! 7年前のお茶会……いや、それ以前の王子たちの教育の時から、なぜこれほどまでに問題ばかり起こせるのか!?
「お前たち、いつ王妃からそれを聞いたのだ? 王妃は離宮にて静養させているはずだ」
「母上から手紙が届いて離宮で会いました」
「私もです」
くそっ! 離宮にいる使用人が我から王妃に寝返ったのか! すぐに対策をしなければ!
「今すぐに宰相を呼べっ! それと騎士団長もだ! エリック、ロバート。お前たち2人は再教育だっ! 我が指示するまで自室から出るなっ! 破れば王位継承権をはく奪する!」
矢継ぎ早に指示をするが、宰相が来る前にある程度の対応策を練っておかなければな。
エリックとロバートは呆気にとられていたが、我の専属騎士が無理やりに連れて行くと、不承不承ながらもついていった。
まさか、グラース公爵からの苦情が、このような事態につながるとは思ってもみなかった。
王妃は隣国から嫁いできたが、これは隣国に苦情を入れて離婚も視野に入れるべきか? というか、王子たちの教育はどうなっているんだ?
普通に教育を受けていれば、次期領主が王子の婚約者になれないことなど、わかりきっていることだろう!
ああ、くそっ! 考えがまとまらない。やはり、1人で考えていてもダメだな。宰相や騎士団長も交えて、これからの国の行く末を考えていかなければならないか。




