33 王都のタウンハウス
「おかえりなさいませ、お嬢様」
馬車旅を終えて王都につくと、王都のタウンハウスにいた使用人たちが一斉に私に頭を下げてくる。
わかってたことだけど使用人たちの教育は行き届いていて、王都へとやってきた私に対して「いらっしゃいませ」なんて言う使用人はいない。
公爵家にとっては公爵領にある屋敷も、王都にあるタウンハウスも、どちらもホームなのだから、おかえりなさいませ、というのが正しい。
「みんな、出迎えありがとうね。王都は変わりない?」
「はい。王立学園への入学で貴族の方が増えてきましたが、おおむね変わりはありません」
「そう。馬車の中に荷物があるから、それを運んでちょうだい。私はエイミーと先に部屋に行っているわ」
「かしこまりました」
馬車内の荷物に関しては使用人に任せることにして、私はエイミーと一緒にこれから私が過ごすことになる部屋に向かう。
王立学園の在籍期間は6年なので、少なくとも6年間は寝起きすることになる部屋だから、確認は重要だ。
「公爵領にある屋敷と、あまり変わらないわね」
「旦那様がそうするようにと指示していたようですよ」
「過保護……でもないわね。正直、助かるわ。全然違う配置だと慣れるまで大変だし、慣れてしまったら公爵領に帰ってから大変だからね」
「お嬢様、執務机も完璧に再現されていますよ」
エイミーが指さす方を見てみると、そこには私が屋敷で使っていたのと同じ形の机があるだけでなく、その上には私が使っていたのと同じペンや紙も用意されている。
タウンハウスでは物語を書くつもりはないから、ここまでしなくてもいいのだけれど……これは、暗に書けって言われているのかしら?
まあ、王立学園での人間関係の構築が終わって、暇だったら書いてもいいけれど。
「ねえ、エイミー。これが用意されているということは、原稿を書くことを期待されているのかしら?」
「期待はしていると思いますが、書かなくても問題はないと思いますよ」
「そう? まあ、お父様が王都に来た時か、あるいは長期休みで公爵領に戻った時にでも聞きましょうか」
前世では私室に家具やら家電製品を詰め込んでいたけれど、今世では仮にも貴族なので私室にはベッドと机、それに衣装棚くらいしかない。
だからということもないけれど、今世では部屋が広く見えるのよね。
「……私、これから6年間もこの部屋で過ごすのね」
「寂しくなりましたか?」
「いいえ。エイミーもいるし、タウンハウスの使用人もいるから寂しくはないわ」
寂しいといえば、今世に転生して、しばらくしたころの方が寂しかった。
異世界転生したばかりのころはこの世界に馴染むので手いっぱいだったけど、馴染んだ後はふとした瞬間に前世を思い出して寂しくなっていた。
前世の自分がなぜ死んだのか、というか死んだのかどうかもわからないけれど、家族のことや友人のことを思って寂しかったなぁ。
異世界転生のお約束なのか、自分以外の誰かに関する記憶はあいまいで、家族の顔も名前も思い出せないけれど、失ったという感覚だけはあったからね。
ほかの異世界転生者……たとえば、幼少期に公爵家にやってきたピンク髪の少女とかもそうだったのかしら?
まあ、聞いたところで自分が主人公だと思い込んでいる人じゃ、まともに答えてくれる保証はないし、聞くだけムダかな?
ちなみに、あの後も自称・主人公の異世界転生者には何人かあったのだけれど、どの人も矛盾がある設定だったわ。
お父様の元婚約者と名乗る女性、自称冒険者の男性……ちなみ、この世界には冒険者なんて言う職業はない……、自称・天才魔導士を名乗る少年……これも魔導士なんて職業はない。
それもこれも私が前世で読んだ物語の主人公だと名乗っていたけれど、その人の境遇や世界の常識から考えると矛盾が多すぎて、にわかには信じられなかったのよね。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
「なんでもないわ。これまでも変な人に会ったなぁと思いつつ、王立学園でも変な人に出会いそうだな、と思っただけ」
この世界が物語の中にせよ、そうでないにせよ、王立学園なんてオタクなら物語のメイン舞台だと思ってしまうだろう。
この世界がどんな世界なのか把握できていないのだから、王立学園では公爵領にいた時よりも警戒しないとね。
「お嬢様、王立学園でもお傍におりますから頼ってください」
「ええ、頼りにしているわ」
王立学園では使用人を1人だけ帯同させることができる。というのも、学園に通う貴族の子供は自分で荷物を運んだこともない子たちばかりなので、移動などを補助するらしい。
授業中は使用人は離れることになるけれど、それ以外の時間はエイミーが傍にいるというのは頼もしいことだ。
とはいえ、エイミーは使用人だからほかの貴族と話すことはできないから、私がしっかりしないといけないのは変わらないけどね。




