32 あれから7年
「お嬢様、準備はできましたか?」
「ええ、エイミー。みんなが手伝ってくれたから、すぐに終わったわ」
私が異世界転生してから7年の歳月が経った。王族のお茶会からは本を作ってはお茶会に参加し、新しいアイディアをもらっては、また本を書くという生活だった。
そんなこんなで過ごしていると、7年なんていう時間はあっという間に過ぎて、私は王立学園に入学する年に。
本を作成する場所もスペンサー子爵領だけでなく、公爵家の寄子に広まっているから、今やグラース公爵家といえば、本を作り出す場所として知られている。
そんな風に実績を積み上げまくった私だけれど、この国の貴族として生きるのには王立学園の卒業が必須だから本の作者としての活動は一旦凍結。
これからは名と顔を国内の貴族全員に覚えてもらうために活動することを優先して、本の執筆は時間が空いた時にしないと。
ちなみに、あのお茶会に出席した貴族の中でも何人か、そして市井でも本の執筆が流行しているので、私が作成した以上に本は増えている。
「お嬢様、寂しくはないですか?」
「ふふ、寂しいけれど、長期休みには帰ってこれるし、お父様が王都にいらっしゃるときは顔を出してくれるわ。……それに、エイミーが一緒にいてくれるでしょう?」
王立学園という名前の通り、学園は王族が運営していて、それがゆえに王都の一等地に建てられている。
つまりは、私は生まれ育った公爵家から離れて、王都で暮らすことになるのだけれど、別に一生会えないというわけではないので、そこまで寂しくはない。
あ、ちなみに王子2人の更生はうまくいっているようで、1学年上のエリック第一王子はすでに学園に入学して周囲の信頼を勝ち取っているらしい。
「では、参りましょうか?」
「ええ、お父様とお母様に挨拶をしたら出発ね」
寂しくはないけれど、公爵家に戻ってくるのは最低でも数か月後。この扉をくぐって、この廊下を歩くのもしばらくはないと考えると、やはり感慨深いわね。
「ローズマリー」
「ローズマリー……もう行ってしまうの?」
「お父様、お母様。お見送りありがとうございます。……お母様、今生の別れというわけではないのですから、そこまで悲しまなくても」
「でも、数か月は会えないのよ!? 私はこれからどうすれば」
「長期休みには必ず帰りますよ。……そこまで悲しまれるのなら、その悲しみを原稿にぶつけてください。お母様の恋愛物語も評判が良いのですから」
「……うん、そうね。この気持ちを本にしてローズマリーに読んでもらいたいわ」
「お父様、本の事業はしばらくお父様の判断にお任せします」
お母様が納得したので、私はお父様の方を向いて話し出す。
「ああ、そうだね。これまでローズマリーがやっていた原稿の選定も私がやるから、ローズマリーは王立学園を楽しんでおいで」
「はい。なんとしても、学園に在籍中に婚約者を見つけないといけませんし」
「すまないね。なかなか、良い婚約者を見つけられなくて」
「いえいえ、私の理想がこの国の常識とかけ離れているのが悪いのですから、仕方がないですわ」
わかってもらえたと思うけれど、あれから7年も経つというのに私には婚約者がいない。
というのも、この世界では女が領主となることもあるけれど、実質的な仕事は夫に任せるというのが普通だ。
だけど、私は本の事業もあるけれど、お父様の後を継いで自分が公爵として仕事することを夢見ているので、それを補佐している人間を婚約者にしないといけない……まあ、難しいわよね。
「王都の方に出た時には会いに行くよ」
「ええ、待っています。……それと、出来上がった本は私の方にも送って下さい。王立学園で注文が取れたら、注文票をお送りしますので」
「うむ、宣伝や営業は重要だからな」
さて、あんまり長居しても踏ん切りがつかなくなってしまうだけだから、そろそろ馬車の方に乗り込もうかしら。
王立学園で使うための教材なんかは学園側が用意しているから、私の荷物は着替えや本がメイン。
これから住む王都のタウンハウスには専用の使用人がいるし、家具もそろっているから、こうなるのは必然よね。
「では、お父様、お母様。行ってまいります」
「ああ、向こうの使用人に問題があったら、すぐに報せなさい」
「はい。お父様が定期的に訪れているので問題ないかと思いますが、何かありましたら手紙を送りますね」
「ローズマリー、体には気を付けるのよ。……それと、王子たちにも」
「お母様、ありがとうございます。……更生したとの噂ですが、十分に気を付けますわ」
王子2人は更生したとの噂だけれど、実際に会ってみなければ判断はつかない。
それに、王都で主に活動する貴族の話では、私に会いたいと言っているという声も聞くので、本当に注意しなければ。
まだ、この世界が物語やゲームの中なのか、それともただの異世界なのかは判断できないけれど、公爵令嬢に執着する王子なんて厄ネタ以外の何物でもないからね。




