30 お茶会の感想
「おかえりなさいませ。お茶会はどうでしたか?」
陛下が退室すると身分順に退室を許可され、公爵家である私とお母様は早いうちに解放された。
今は馬車の中に入ったところだけれど、馬車が動き出すとエイミーが恐る恐る質問してきた。
「最悪だったわ」
「ローズマリー」
「わかっています、お母様。不敬なことは言いませんわ」
私の言葉にお母様が窘めてくる。馬車の中に入ったとはいえ、ここはまだ王城の中だから王子たちの批判は言わないようにということだろう。
「ですが、せっかく私の本が好きだという子供たちと出会えたのです。まだまだ、お話したいことがありましたのに」
別に王子たちのことは良い。お父様からそういう子たちだと聞いていたし、お茶会でやらかしそうなことは大体想像がついていた。
実際、私がやられたことは挨拶の途中で話しかけられた……というか、暴言を吐かれたことくらいだもの。あのくらいは、ヤンチャなお子様なら誰でもやることだわ。
でもね、王妃は許せない。自分で子供たちのお茶会をと言い出したくせに、自分勝手な欲望でお茶会をメチャクチャにした王妃はね。
「ええ、本で文字を覚えたと言っていた子がいましたね。こちらでも、親たちから話を聞いて、いくつかの貴族家からは注文も取ってありますよ」
「さすがはお母様!」
子供たちの傍では、その親たちがテーブルを囲んで見守っていたから、何か話しているとは思っていたけれど、お母様は本の注文を取ってくれていたのね。
詳しく家名を聞くと、お茶会で文字を覚えたと言ってくれた子や、冒険物語が読みたかったと言っていた子のお家も入っているから、収穫としては上々ね。
「ローズマリー、注文を受けた家からは、どんな内容の本が作られるのか質問されたけれど、これからはどういった本を作るの?」
「しばらくは寄子の貴族に集めてもらう伝承と寝物語、それに私の書く恋愛物語ですね。お父様にお願いして、寄子の貴族には各領地のお話を集めるように依頼してもらっています」
無料で集めると本を販売するときに軋轢を生むから、集めたお話の量に準じて報奨金を出すということになったけれど、そうなるとエイミーたちにも報奨金を出さなきゃなぁ。
ちなみに、前世でも恋愛系のお話しか書いていなかったから、冒険物語を書くのは無理よ。
「魔物と戦う騎士のお話を望まれたのだけれど……」
「私には書けませんので、書ける人材を育成するか、望んだ方が自分で書くのが早いですわね」
前世で読んだ小説の主人公ならば、ここで自分が何とかしてやる! と言うのかもしれないけれど、現実的に考えて私がすべての原稿を書くのは無理がある。
なんといっても、この世界にはパソコンがなく、すべての原稿は手書きである。
プロットや設定資料に関しても簡単に消したり付け加えたりできないので、物語を書き始める前にすべて固めておかないと書き始めてから混乱することになる。
そういう諸々を考えると、私だけで書ける分量は限りがあるし、物語の書き手の育成は急務なのよね。
まあ、スペンサー子爵領で作成できる本には限りがあるから、徐々にで良い気もするけれど、方々から注文があるからね。
「人材の育成……ローズマリー、当てはあるの?」
「初めての試みですから、公爵家で援助するのが早いと思いますよ。物語を書きたいと思っている人を募集して、応募者の経歴を調べ、紙を預けて物語を執筆させる。出来が良ければ、公爵家が援助する……そういった形でしょうか」
いくら公爵家でも無限に支援できるわけではないから、応募者をふるいにかけなければならない。
「そうね。少なくとも文字が書けないとダメだものね」
「ええ、それに体の良いことを言って、実際には物語を書かない人もいると思いますわ」
「そんな人が?」
「自分には素晴らしいアイディアがあるんだ、あと少しで大傑作ができるんだ、などと言って納期も守らない方が出てきますわ……ねえ、エイミー。そういった方が市井に入るんでしょう?」
「……そうですね。さすがに公爵家相手にやるとは思えませんが、下位貴族の家では経歴を自慢して実際には料理をしないシェフや、自分のひいきだけを重用するメイド長などいますね」
「料理をしないシェフ?」
「はい。王都のレストランでメインを作っていたとの触れ込みで入ってきたのですが、偉そうにほかの人に文句を言うだけで、よくよく調べてみたら王都のゴロツキだったという話です」
「公爵家と言ってもお父様は代替わりしたばかりで若く、そもそもの事業の発案者が子供の私です。言いくるめて大金をせしめようとする人は出てくるでしょうから、応募者の経歴を調べるのは重要です」
「そうね。詳しくはジェイソンと話し合ってみるわ」
「お願いします、お母様。……つい最近も仕事をしないメイドが寄子の紹介という形で入ってきていましたし、貴族からの紹介でも経歴は洗う必要はあるかと」
そういえば、という形で私に突っかかってきた転生者だと名乗るピンク髪のメイドを思い出した。
あんな感じで口だけ上手くて仕事をしない人間ばかりになってしまったら、本を増やすなんて夢のまた夢だからね。




