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29 お茶会後半

「ローズマリー、こちらにきて王子とお話ししなさい」


 子供たちと本の話をして上機嫌だった私だったが、いきなりこんな言葉を聞かされて急激にテンションが落ち込んだ。

 というか、私は名前で呼ぶ許可なんて出してないのだけど。王妃とはいえ、よく知りもしない子供を捕まえて名前で呼ぶなんてマナーがなってないわね。


「王妃殿下、お断りいたします」


 もちろん、私の返答はNo一択だ。


「なっ!?」


「見れば、王子殿下の傍には交流を持ちたがる方たちで、いっぱいのご様子。私が入り込む隙間なんてありませんわ」


 挨拶の時の様子や私への暴言で王子に対する評価は下がり、まともな人は相手にしていないけれど、それでもよくわからず取り入っている人はいる。

 現に王子の隣にはグラース公爵家とは別派閥の侯爵令嬢と伯爵令嬢が侍っていて、私が入り込む隙間なんて見当たらない。


「何を言っているの? 貴女は公爵令嬢なのだから、下位の者はどかせばいいじゃない?」


「王妃殿下。私、そのようなはしたない真似はしたくありませんわ。いくら王族からの提案とはいえ、貴族としての誇りは失いたくありませんもの」


 私が王子に夢見る少女だったのなら、そういうこともしたかもしれないが、私の中で王子の株は下がり続けている。

 だというのに、なぜ私の評判を下げてまで王子に話しかけに行かなければならないのか。

 私にとっては王子と話すよりも、ここで本に興味を持った子供たちと話すほうが何倍も有意義だ。


「なっ!? ……な?」


 私の言葉に王妃は口をパクパクさせながら、青くなったり赤くなったりしている。

 おそらく、王妃という権力と王子という肩書があれば、私が素直に頷くと思っていたのだろうけど、あんな醜態を見せた後では私でなくとも上位貴族なら難色を示すでしょうね。

 現に私の傍にはお母さまを含めて、この場にいる子供たちの親、それに王族の使用人も控えているけれど、誰も非難の声を上げることはない。……それだけ、王妃の言葉が非常識なのよね。


「そもそも、王妃殿下。私、王妃殿下に名乗りを上げていないので、グラース公爵令嬢と呼んでいただけませんか?」


「……は?」


 いやいや、私が挨拶をしたのは王子たちで、貴女はその傍にいただけでしょう?

 そもそも、このお茶会は王子と同年代の貴族たちを交流させるという名目で、親が出しゃばって話しかけるのはマナー違反。

 私の名前を呼んだことといい、王子ではなく自分が私に話しかけてことといい、主催者だというのにマナーがなっていないわね。


「……殿下、ここは子供たちの交流の場です。大人が出しゃばるのは良くないかと」


 私の言葉に完全にフリーズしてしまった王妃を見て、ようやく使用人が王妃に耳打ちをする。


「私は王妃よっ!」


「……グラース公爵令嬢、失礼いたします」


「ええ、王妃殿下は錯乱していらっしゃるようですから、少し休憩したほうがよさそうですね」


 王妃が怒鳴った瞬間に私と王妃の間に騎士が割込み、その隙に使用人が王妃を引っ張っていく。

 私は王妃よ、なんて怒鳴っていたけれど、私は次期公爵の公爵令嬢だし、ここにいる子供たちだって似たり寄ったりの立場だ。

 陛下ならともかく、隣国から嫁いできて、この国のマナーすら理解していないような王妃にへりくだる理由はない。


「全員、注目! これから国王陛下が視察に参る」


 王妃が使用人に連れ出され、お茶会の会場からいなくなると、1人の騎士が突然声を張り上げた。

 その言葉を聞いた瞬間に会場にいたほぼ全員が、陛下に対する礼の姿勢をとる。


「「父上!」」


 ほぼ全員、と言ったけれど、この声から唯一、王子たちだけが礼をとっていないことが分かった。

 自分の親とはいえ、ほかの貴族もいる公的な場で陛下に対して礼も取らずに声を張り上げるなんてマナーがなってないわね。


「みな、顔を上げてくれ」


 王子たちには見向きもせず、陛下は礼をとっている私たちに向かってそう言った。

 王妃みたいに王子たちを優先しなくてほっとする反面、陛下だけがまともだと心労がすごいだろうなとも思う。


「父上、どうなされたのですか?」


「父上、私の話を聞いてください」


「2人とも、マナーがなっていないようだな。……みな、今日は有意義な交流ができたであろうか? 先ほど王妃の具合が悪くなってしまってな。すまないが、本日はこれでお開きとさせていただく」


 ああ、なるほど。お父様の話では陛下はこのお茶会に乗り気じゃなかったようだから、王妃が休憩に行ったタイミングでお開きにするように考えていたのね。


「エリック、ロバート、使用人とともに自室へと下がりなさい。……みなは順に使用人が案内をする。ひとまずは席でくつろいでいてくれ」


 この国は身分社会だから、王族が退室しない限り誰も部屋から出ることはできない。

 それをわかっている陛下は王子を下がらせて、自分も部屋から速やかに退出していった。

 王子たちは駄々をこねて暴れていたけれど、使用人たちに拘束されて連れていかれた……本当に陛下の心労が心配だわ。

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