28 王族のお茶会
「グラース公爵家が娘、ローズマリー・グラースです。エリック第一王子殿下、ロバート第二王子殿下。本日はお招きいただきありがとうございます」
寄子とのお茶会も終わり、本日は王族のお茶会。別に来たくもなかったけれど、ここで下手なことをすると公爵家の評判にもかかわるので真面目にやる。
前世で読んだ転生ものの物語では地味な格好で王子の目を引かないようにするという展開があったけれど、あれは悪手。
そんなの王子の目を引いてくださいと言っているようなものなので、私は他の皆に合わせる。上位貴族らしい格好をして、上位貴族らしい振る舞いをする。
「うむ」
「母上、まだ続くのですか?」
第一王子はまだ集中して答えているけれど、私と同い年な第二王子は既に紹介に飽きているのか、母親である王妃の方を向いて質問しだす。
これが王族? ありえないでしょ。公爵家や侯爵家、それどころか伯爵家の子供たちだって大人しく王子への拝謁待ちをしているってのに。
大人たちも王子たちの態度を見てアイコンタクトをしているから、多分この後は王子に誰を側近としてつけるかを大人たちで話し合うんでしょうね。
「ほら、2人とも。ローズマリーは、あの本を作った子よ」
あまつさえ、王妃は王子を窘めるでもなく、私と接点を持つように促してくる。……バカじゃないの?
ただでさえ上位貴族の大人たちから王子の評価がだだ下がりなのに、自分の評価まで下げるなんて自分で自分の首を絞めているようなものよ。
「本当かっ!?」
「おい、お前。新しい本を献上することを許すぞ! 早く本を持ってこい」
「…………」
王子2人の暴言に私は目を丸くする。公爵家である私は早い順番で王子たちに挨拶をしている……すなわち、私の後ろには多くの子供たちが待っているのよ。それなのに、質問するなんて馬鹿じゃない?
しかも、王族に次ぐ権威がある公爵家の娘に対して、王子とはいえ命令するかのような暴言を吐く。
「王子、他の方がお待ちですので」
「挨拶を滞らせてはいけません」
慌てて王子の教育係と側付きの使用人が現れて、王子を窘めるけれど、既に時遅し。
もっと成長した段階で催されるお茶会ならともかく、お披露目前のお茶会ということで、ここにはお茶会に参加する子供たちの親も見守っている。
伯爵家の人間はともかく、公爵家や侯爵家の人間には王としての資質を見定められているということを忘れてはいけないわ。
「……」
王子たちの暴言は聞かなかったことにして、私は静かに礼をしてその場を離れる。
王子たちはその場で「おい」とか「話は終わっていないぞ」とか言っているけれど、教育係と使用人に抑えられているので、私の方に向かってくることはしない。
王妃は周囲の空気を読んだのか黙っているけれど、ふてくされたようにそっぽを向いているので、あれは本質的にはわかっていないわね。
「王子殿下にご挨拶させていただきます……」
その後も子供たちが順番に挨拶をしていくが、ほとんどの子供は私とのやり取りで王子のことを見限ったのか、決まりきった文言での挨拶に終始している。
とはいえ、もちろん中には権力欲におぼれているのか、事情をよくわかっていないのか、王子にすり寄っている子たちもいる……無知って怖いわね。
「グラース公爵令嬢があの本を作っていたのですか? 叔母様から贈られてきてから、毎日のように読んでいます」
「私もです。あの本のおかげで文字の読み書きの上達が早くなったのですよ」
「ふふ、ありがとうございます。次の本も作成中ですので、出来上がったら購入してみてください」
王族のお茶会ということだけれど、王子たちの周りには既に何人かの令嬢や令息が侍っているので、私は私で他の子供たちと本の話をしている。
グラース公爵家の派閥には伯爵家はあるけれど、公爵家や侯爵家はいないので、そういった子供たちと話すのが楽しい。
どの子も文字の勉強のために本を読んでいたけれど、神話や職業本は難しい単語が多かったので、私の作った本で勉強が捗ったらしい。
「次はどんな本になりますの?」
「次は恋愛を主軸に置いた物語です。皆様が持っている本は各領地に伝わる伝承や寝物語をまとめてものでしたが、次の本はお話集めを手伝ってくれた侍女のために私が書いたものですの」
「グラース公爵令嬢がご自分でお書きになったのですか?」
「ええ。だって、恋愛を主軸にしたお話なんて、この国にはないでしょう? ないものは自分で作らなければ」
「……恋愛ですか。私は冒険をするお話が良かったですね」
「でしたら、ご自分でお書きになってみると良いですわ」
「……自分で?」
「ええ、どんな人物がいて、どんな理由があって冒険に出て、どんな怪物と戦うのか、すべて想像してみるのです」
「……想像」
「想像できたら、本を参考に物語として書いてくのです。神話のような長さでも良いですし、私の本のように短いお話でも良い」
「……ですが、私には本を書く才能など有りません」
「ふふ。間違えていますよ。本を書くのに才能など有りません。書くか書かないかです。才能が必要なのは、面白い本を書けるかどうか、です」
これは前世からの持論。前世でも、本を書けるのは才能と言われていたけれど、そもそも勉強にしろ仕事にしろ文章を書いている人は大勢いるのだから、文章を書くだけなら誰でもできる。
ただ、万人が面白いと思うような話を書いたり、みんなを説得できるような文章を書くのに才能がいるだけだ。
面白さなんてい人それぞれだし、この国には存在しない本を作ろうとしている段階なのだから、面白いかどうかなんて誰にもわからない。
「もしも、書ききったのなら公爵家にお送りください。他の人たちもですわ。きちんと出来上がっているお話なら、契約を交わして本にさせていただきますわ」




