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26 本の値付けと紙の行く末

「とりあえず、いつ開催されるかわからない王家のお茶会よりも、寄子とのお茶会の方が優先です。お母様、内容は確認できていますか?」


「ええ、もちろんよ。今はお茶会についてくる侍女たちに読ませているわ。お茶会中も交代で休憩に入るから、そこでも広めてもらおうと思ってね」


「なるほど……お父様、貸し出す本の料金を決めておいたほうが良いかもしれません」


「早くないかい?」


「下賜した寄子の反応を見てからと考えていましたけれど、使用人たちに広めさせるとなると問い合わせがありそうです」


 今回の本は寄子に下賜しているから、次の本からレンタルを開始しようと考えていたけれど、使用人から本の内容が広まったら購入したいという人が出てきそうよね。

 もちろん、エイミーのために作成した恋愛物語も問い合わせが来そうだし、そうなった時のためにレンタルの料金、それと購入に必要な料金を決めておいたほうが良いだろう。


「ふむ。スペンサー子爵から本を作成する代金は聞いてあるのかい?」


「はい。今回、恋愛物語を作っていただくということで、料金の概算を聞いておきました」


 エイミーには羊皮紙で作られている本の料金を調べてもらっていたから、それと比較することもできた。

 羊皮紙の本と同じ厚さだと値段はだいたい半額くらい。とはいえ、これは100冊という冊数で計算しているから、もっと大量に刷れば印刷代も安くなるだろう。

 そもそも羊皮紙の本は筆記師に写本を依頼するのが料金高騰の原因でもあるので、印刷機を使うことで費用が大幅に下がることはわかっていた。


「ふむ。このくらいか。これにウチの取り分を乗せて……」


「お父様、私の原稿代も上乗せしてください」


「原稿代?」


「はい。従来の本では写本を依頼する依頼表を作成してもらう際に執筆者に収入が入りますが、印刷機を使った本は大量生産が前提。でしたら、本の売り上げの一部を執筆者に入れないと生活ができないでしょう?」


 いわゆる印税ね。私としては公爵令嬢としてお金に困っていないからいいんだけど、これから本を作ろうと考えた人たちのことを考えたら、最初に仕組みを作っておいたほうが良い。


「それと、スペンサー子爵ときちんと契約を交わしてください。スペンサー子爵領では本の作成だけを行い、販売は公爵家で行う。紙の本は物語に限り、職業本や神話は作らない、と」


「意図は?」


「まずスペンサー子爵領で本の作成、公爵家で本の販売と分けるのは、執筆者にきちんと利益が配分されるのを担保するためです。公爵家が目を光らせていれば勝手に写本をする人は出ないですが、子爵家では難しいでしょう」


 公爵家に逆らえるのは、同格の公爵家、あとは王家くらいだけど、その辺りの家はウチを敵に回してまで本を密造する意味は薄い。

 でも、スペンサー子爵領で本の売り出しを始めたら、金に困っている子爵家や伯爵家が本を密造する可能性はあるでしょうね。


「ふむ」


「紙の本を物語だけにするのは、羊皮紙の製造者が困らないようにです。スペンサー子爵から聞いた紙の原価は羊皮紙の3割ほど。職業本や神話も紙の本が出回れば羊皮紙の製造者は失職するでしょう」


「公的な書類はほぼ羊皮紙だから、即座に失職するということはないと思うぞ? 羊皮紙が足りなくて写本ができないという話しも聞くし」


「では、王家に話しを通して公的な書類も羊皮紙から変えないようにしてください」


「いやいやいや」


「お父様、上位貴族はメモを取る際に何を使用しますか?」


「ん? 羊皮紙だが」


「ええ、そうですね。私も物語を書く際に羊皮紙で原稿を書きましたから。ですが、羊皮紙の3割の値段で買える紙が市場に出れば紙でメモを取るようになるでしょう」


 羊皮紙を頻繁に買えない下位貴族や平民は黒板だったり、木だったりにメモするらしいけど、低価格の紙が市場にあれば紙を使いだすかもしれない。

 なのに、職業本や神話、公的な書類まで紙が使われるようになったら、物語の本に使うための紙が無くなってしまうかもしれない。


「しかし、紙が売れればスペンサー子爵領も潤うだろう?」


「邪魔な植物で作ってる分はそうかもしれませんが、需要が増えればほかの植物で紙を作ろうとするかもしれません」


「まあ、売れるのなら作るのが職人だし、売るのが商人だからな」


「そうしたら、いずれスペンサー子爵領は植物の生えない荒地になってしまうかもしれません。植物を切るのは一瞬ですが、育てるには膨大な時間がかかりますから」


「……ふむ」


「ですので、使える分は羊皮紙を使ってもらうということで。しばらくは紙は物語の本専用にしてください。スペンサー子爵とも相談して、一般販売をしないという方向でも良いですよ」


 そもそもスペンサー子爵領でも試作品という位置づけの商品だから、国全体の需要を賄えるとは思えないのよね。

 一般販売をするくらいなら、私の作る本のために全部取っておいて欲しいくらいだわ。

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