24 王家からの無茶ぶり
「ローズマリー、マズいことになった」
王族に本を献上してくると言って王都へと向かっていったお父様が、かえって来て早々に放った一言がこれ。
人のことを言えないけれど、ただいまって言うところじゃない?
「あなた、どうしたのです? 帰ってくるなり早々に。まずは、おかえりなさい」
「ああ、悪かった。ただいま戻ったよ」
「おかえりなさい、お父様。で、何があったのでしょう? 王族の方々に本を献上してきたのでしょう?」
「ああ、献上は上手くいった……いや、上手くいきすぎた」
ん? てっきり内容が悪くて王族から不興を買ったとか、内容の変更を求められたとか、そういう話だと思ってたけど、上手くいきすぎた?
「どういうことです、あなた?」
「陛下と王妃殿下に見せたところ、知らない情報に感嘆しておられた」
「それは良いことですね」
国王陛下、王妃殿下となれば気軽に市井に下りることも、下位貴族と歓談することもできないので、平民や下位貴族に伝わる伝承や寝物語は初耳だったんだろうね。
「だが、問題もあってね。その日のうちに教育係が王子殿下に本の読み聞かせをしたところ、目輝かせて文字の勉強をしだしたそうだ」
「王子殿下はローズマリーの1つ上と同じ年ですよね? ローズマリーの作った本が読めないのですか?」
今回作った本は公爵家で働く使用人たちから聞いた伝承や寝物語となっているけれど、下位貴族や平民でもわかりやすいように難しい単語は簡単な単語に変えてある。
平民や下位貴族の子供は読むのが難しいけれど、私を含めて高位貴族なら子供でも1人で読めるものとなっている……それが読めないということは。
「どうやら、王子殿下は勉強嫌いらしくてね。王立学園に入学するまでには何とかすると言っているが、現時点では下位貴族の子供くらいしか勉強が進んでいないらしい」
あらあら、国を背負う人間がそれでいいのかしら? 公爵家を背負う私だって相応の教育を受けているというのに、王立学園に入ったら恥ずかしくて退学しちゃうんじゃない?
「王子殿下の教育が進んでいないのは問題ですね」
ま、私にとっては他人事よ。せいぜい、国王陛下には国のために息子たちに優秀な側近を付けて、各地を治める領主たちに迷惑が掛からないようにしてほしいと願うくらいね。
「いや、教育は今回献上した本で進みそうだから問題ないのだが、王妃殿下が王子たちが興味を持った本の作成者に会いたいと言い出してな」
「……まさか、王子の婚約者に据えようとか言い出しませんよね?」
「そのまさかだ。優秀な人材なら王家に嫁ぐのが当然と言い出し……跡取りだから王家に嫁ぐのは無理といったのだがな……」
「王妃殿下は跡取りの重要さを分かっていないのですか?」
「わかっているとは思うが、なにせ隣国から嫁いできた方だからな。本質的には理解していないのかもしれない」
この国で貴族が領主として敬われているのは、領地それぞれに魔導具による見えない防護壁が築かれていることにある。
この魔導具を発動できるのは魔導具に登録した一族の直系だけで、ゆえに私が王家に嫁いだ場合はグラース公爵家が衰退することを意味する。
他の貴族に引き継ぐことはできるけれど、引き継ぐまで防護壁の大きさはわからないから、いざ引き継いでみたら公爵領全体を守れないということもある。
もちろん、私が王家に嫁いで何人か子供を儲けて、そのうちの1人を公爵家の跡取りとすることも可能だけれど、私が何人も子供を産める確約はない。
それに、子供が領地を引き継ぐまでお父様が存命とは限らないし、兄弟姉妹がいる家やさほど重要ではない家ならともかく、国を支える公爵家相手にそんなギャンブルは普通しないわ。
「それで……どうなったのですか?」
多分、今の私は大人もビビるくらいの表情をしているのだろう。お父様の顔が若干引きつっている。
「いや、陛下に事情を話して聞かなかったことにさせてもらったよ。……でも、そうしたら、今度は王子殿下と年回りが同じ貴族家の子供を集めてお茶会をすると言い出してね」
「どういうことです? お披露目には早いでしょう?」
「そうなんだが、隣国ではお披露目は5歳前後らしくてね」
ああ、ここでも王妃殿下のわがままが出たのか。隣国の常識だとしても、嫁いできたのだからこちらの国の常識に従ってほしいものだ。
「おそらく、私に直接会えば王家に迎えられると思っているのでしょう。相手はしょせん子供。王子に会わせてお姫様になれるとでも言えば、簡単に家を捨てると、そう思われているのでしょう」
ばかばかしい。そんな夢見がちな子供が本を作るという、ただそれだけのために奔走したりはしない。
そもそも、私の意識としては大人と同じ精神年齢なのだから、領地を捨ててまで恋に走ろうとは思わないわ。
勤勉で尊敬できる王子ならともかく、前世の記憶が戻る前の私よりも教育がなっていない子どもなんかにときめくわけないでしょ。




