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23 下賜品への目印

「お嬢様、こちらでよろしいでしょうか?」


 お父様から公爵領の特産品を聞いて図鑑などで確かめていると、エイミーが芋とナイフを持って戻ってきた。


「ありがとう、エイミー」


 とはいえ、まだ図面ができていないから芋を彫り始めるというわけにはいかないのよね。


「お嬢様、こちらのお芋で何をするのですか?」


「お父様が寄子に配る本には目印があったほうが良いとおっしゃっていたから、お芋を彫って印を作ろうと思ってね。……こんな感じかな?」


 出来上がったのはローズマリー・グラースという名前と、公爵領で特産品となっている麦穂のデザイン。


「ローズマリー。あなたは女の子なのですから、お花とかの方が良いと思うわよ」


「お母様。それはそうですが、お父様が教えてくれた公爵領特産の花は難しすぎですわ」


 別に私だって自分のしるしとして使うなら麦よりも花のほうが良いけれど、公爵領特産だという花は花弁の枚数も多く形も複雑。

 紙に書くだけなら何とかなるかもしれないけれど、それを芋に彫るということを考えると自分の手には余る。

 この花を印章にするのなら素人の芋版ではなく、プロの鍛冶師に頼んで金属の印章を作ってもらったほうが良いわね。


「ふむ、そんなに難しいかい? よく書けていると思うが」


「お父様。紙に書くのと芋を彫るのは違うのですよ。実際に彫ってみればわかりますが、こんなに細かい線は彫り切れません」


 印章のように文字部分にインクが付く形じゃなくて、文字部分を彫る形にするつもりだけれど、それでも複雑な形を彫ろうと思えば線が潰れたりくっついたりするだろう。

 何せこの世界には彫刻刀がない……いや、あるのかもしれないけれど、少なくとも私は見たことがないから彫刻を生業にしているプロくらいしか持ってないだろう。

 ナイフで、5歳の子供が芋を彫る! いくら前世の分、人生経験を積んでいるといっても、難しい形を彫るなんてできるわけがないでしょう。


「彫金師に頼むかい?」


「彫金師?」


「印章やボタンに刻印をする職業の方だよ。公爵領にも何人か在籍している」


「そんな方がいらっしゃるのですね。ですが、よろしいのですか?」


「お金のことを気にしているのかい? 出来上がるまでは半信半疑だったけれど、実際に出来上がった本は他の本とそん色がないし、これなら予算をかける価値があるよ?」


「いえ、そうではなく。彫金師に頼むということは時間がかかりますよね? 公爵家からの注文なら最速で仕上げてくれるでしょうけれど、それでも数日? 数週間? はかかりますよね」


 貴族……それも公爵からの依頼となれば、他の依頼よりも優先的に受け付けてくれるだろうけど、貴族からの依頼だからこそクオリティを保つために納品には時間がかかるだろう。


「まあ、そうだな。代替わりの際に印章を注文した際は数か月かかったか」


「図案は簡単にしていますから、そこまではかからないでしょうけれど、そうなると寄子の貴族に下賜するのは先になります」


 封蝋などに利用する印章は偽造防止のために図案が複雑化しているから、私が考えたデザインとは難易度が全く違う。

 だから、私の考えたデザインでも数か月かかるかと言われたら、そうではないと思うけれど、それでも時間はかかる。

 お父様もお母様も寄子に早く本を配布して、グラース公爵家の新しい事業として宣伝したいはずだから、その少しの時間が問題なのよね。


「数日後にお父様は王都に向かうはずですけれど、その際に王家に本を献上すると考えると時間が惜しいのでは?」


 王家に献上する際に寄子に既に下賜している事業として報告するか、それとも先行き不透明な進行中の事業として報告するかでは印象が違う。

 私は王家の人たちの性格を知らないけれど、誰にも周知していない段階なら王家が本を作成する事業を取り上げるということも考えられなくはないだろう。


「むっ!」


「それに、お母様。数週間後に寄子とのお茶会が入っていると聞いています。それまでに本を手にしていれば話題に出来ますが、彫金師に頼んだ場合には間に合わないでしょう」


 印章自体は作成できていたとしても、それを各領地に輸送することや、実際に寄子が読む時間を考えれば配布は早ければ早いほどいい。


「そうね。本ができているのに話題に出来ないのは困るわね」


「ですので、今回は私が作ったお芋の印章を利用します。花を印象に入れたほうが良いのなら、彫金師に依頼しておいて次の本から使えば良いのですわ」


 どうせ芋版を次の本まで取っておくことはできないのだから、彫金師に作ってもらうのはありだ。

 だけど、今回はスピード優先ということで、寄子に渡す分の本には私が作った芋版で目印を押させてもらおう。

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