20 お父様への聞き取り
「で、お父様やスペンサー子爵が気に入ったお話はありましたか?」
「ん? 私かい?」
「はい。私やエイミーの中で気に入っているお話はあるのですが、男性の目線も欲しいのです。女性と男性では好むものが違うでしょう?」
お父様やスペンサー子爵に見せる前にエイミーと一緒に本にする物語を精査していたけれど、ハッピーエンドだったり、ホッとする話ばかりになって偏りが出てしまった。
前世でも女性が好む話と男性が好む話は違うことが多かったし、男性であるお父様の目線も入れておきたいのよね。
「ふむ……そういうことなら、こちらとこちら、あとこれも良いと思うな」
お父様が私に返すために持ち歩いていた物語の写しからいくつかを提示してくれる……ふんふん、やっぱり私やエイミーとは全く違う物語ね。
お父様が選んだのは、怪物がいると噂のある森に冒険にいく男の子の話や英雄が怪物と戦うような話。
必ずしもハッピーエンドではなく、主人公が無残にも殺されてしまう話もあって、私やエイミーが好むお話とは全く違って参考になる。
「やっぱり私やエイミーが選んだお話とは違いますね。ありがとうございます。参考にさせていただきますわ」
「ちなみにローズマリーが良いと思った話は?」
「ええと、こちらとこちら……あとは、この辺ですね」
「ふむ。確かにいい話だが、少し展開がぬるくないか?」
「まあ、お父様のおっしゃりたいこともわかります。私が選んだお話は似たような展開が多く、基本的に主人公とヒロインが幸せになるものですからね」
お父様が選んだお話が逆転に次ぐ逆転のジェットコースターのようなお話なら、私が選んだのはゆっくりと展開が進むメリーゴーランドのようなお話。
どちらが優れているとかいうことではなく、どちらもお話としてはそれなりに完成しているので趣味の問題だろう。
「うむ。聞かせるのが子供ということなら、このくらい激しい方が好みそうだが」
「でも、寝る際に聞かせるものですから、あまり興奮させると寝なくなるのでは?」
「む! 確かにその懸念はありそうだな」
「もちろん、騒がせて疲れさせて眠気を誘うというのもありですけれど、全く寝なくなる可能性もありますわ」
子供が1人だったりしたら騒がせるのもありだとは思うけれど、例えば3人兄弟だったりしたら、興奮してベッドの中で喧嘩とかをしそうだ。
本人たちは英雄ごっこのつもりでも、夜に騒がれたら他の人に迷惑だろう。
「ふむ。では、この話は本にしないのかい?」
「いいえ、しますわ。同じような話ばかりでは飽きますし、バランスを見て入れます。あるいは、自分で文字が読めるようになった年齢向けにまとめて出すのもよさそうです」
「読み聞かせではなく、かい?」
「ええ。本を読むために自分から文字の勉強をするようになれば、読み聞かせ用の本も教育のためと売れる可能性がありますわ」
使用人の皆に聞き取りをした結果、子供時代の娯楽といえば外で走り回る、森で遊ぶなんかがメインで、雨の日は暇を持て余していたという。
本で文字を学ぶようになれば娯楽が増えるし、そうすれば本をもっと増やそうという動きになるかもしれない。
「ふむ。本が売れる環境を作れば、公爵家や子爵家のためにもなるか」
「はい。そのためにも、子供用の読み聞かせ以外に、貴族女性向けの恋愛話も販売しようと思っています」
「貴族女性向け?」
「お母様やエイミーが言うには、貴族女性はお茶会で情報交換をしているとか。でも、なかなか話題が集められないという人もいるらしいのです」
当たり前だけれど、情報収集が得意な人がいれば苦手な人もいる。特に下位貴族は日々の生活で手いっぱいということもあり、人のうわさ話を集めて提供するのは難しい。
「ふむ、それで?」
「上位貴族としては、そういった方々が肩身の狭い思いをしないように配慮する必要があるそうです。その一環として、恋愛物語の本をお茶会のメンバーで共有することで話題を提示するのです」
話題を提示することができなくても、同じ本を読んでいれば感想を話したりして話題を共有できる。
「ふむ、公爵家としては確かにそういった配慮は必要だね。……で、ローズマリーの利点は?」
「……貴族女性という知識人が読書を趣味にすることで新しい物語が生まれる可能性が増えることです。現在は私が1人で物語を作成していますが、領主となればそれも難しくなるので」
今は子供ということで役割がないので、暇つぶしがてらに物語を書けているけれど、領主となればそれも難しい。
お父様を見ていればわかるけれど、パソコンやコピー機のないこの世界では書類仕事だけでも膨大な量があり、それに実地での見聞を入れれば趣味に取れる時間などほんのわずかだ。
寝る前に読書を楽しむ余裕くらいはあるだろうから、私が領主になる前に物語を書ける人材を育成して、本が大量に発行されるように制度を作らなければならない。




