15 商談
「複数の話を一冊に?」
「はい。神話の本も複数の神様のお話を一冊にまとめているものがありました。そちらは、関連する神様をまとめたものでしたが、それと同じように似たような話をまとめてみようかと」
「しかし、似たような話をまとめても需要がないのでは?」
スペンサー子爵の言葉にお父様も頷いている。
「人によるでしょう。似たような話だから読む価値がないと思う人もいるでしょうけれど、自分の好みの話だからいくつでも読みたいという人もいると思います」
「「ふむ」」
「そもそも、私が作ろうとしている本は学術的に意義のあるものではなく物語。ターゲットも高位貴族の男性ではなく、下位貴族の女性や平民の女性。言ってしまえば、子供を寝かしつける時の寝物語として考えています」
「……寝物語」
「……しかし、それでは需要が少なすぎるのでは? 写本を頼むにしても下位貴族や平民には無理なのでは?」
お父様は考え込んで、スペンサー子爵は当然もつであろう疑問を投げかけてくる。
「だから、スペンサー子爵にお願いしているのです。本を作りませんか? と」
「……まさか、私の領が豊かだから本を作って配れと言うおつもりですか?」
「まさか。私はスペンサー子爵に紙を大量生産してもらい、同じ版型から作った本を大量に作ってほしいだけですわ」
「本を大量生産? そのような手段をお持ちなのですか?」
「またまた。とぼけるのはよろしくありませんわ。スペンサー子爵から頂いた本は、印章のようなものを並べて刷られたものでしょう?」
「……どうして、そう思われたのですか?」
「こちらの本ですが、一部の文字が欠けているのです。それも、あるページから先はまったく同じ賭け方をしているのが見て取れます」
スペンサー子爵に実際に本を見せながら、説明をしているとスペンサー子爵の顔色が悪くなっていく。
あらあら、きちんと確認をせずにお父様に献上してしまったのね。
「スペンサー子爵がどのくらい本を作ったかはわかりませんが、大量に作るのなら一冊当たりの単価は下がるでしょう?」
当然ながら、本が高価と言われているのは筆記師への依頼料が高額だからだ。
筆記師を雇わずに本が作れるのなら本の値段はぐっと下がるし、羊皮紙よりも紙の方が安価ならさらに値段は下がるだろう。
「こちらの本は試しで作ったので、そこまでの冊数は作っていないのです。ですから、実際に作ってみないと分かりませんが、確かに写本を依頼するよりは値段は下がるでしょう」
「ほう。本を大量に作る手段を開発したのか。さすがはスペンサー子爵だな」
「いえ、紙の作り方も本を大量に作る手段も曾祖父母が残したものなのです。作りかけで放置されていた試作品を、曾祖父母の手記を参考に作り直したのですよ」
「ほう。農業改革を行った代のスペンサー子爵ですな。そんなものまで残しておいたとは」
スペンサー子爵領で行われた農業改革も教えてもらったけど、製紙業や印刷業の知識もあったとなると、その人たちは異世界転生者なのだろう。
お父様をヒーローだと勘違いした使用人……名前なんだっけ? に加えて私にも前世の記憶があるから、他にもいるかもとは思ってたけど、そんな過去の人物も異世界転生者とは。
まあでも私が住んでいる屋敷だけを見ても、現代に通じるというか、便利なものがたくさんあるから他に異世界転生者が居てもおかしくないけど。
「でしたら、なおのこと本のことはスペンサー子爵にお願いできますわね。原稿はこちらで用意しますので、本の製作をお願いしたいのです」
「いや、しかし……」
「もちろん技術料はお支払いしますし、刷られた本を保管する場所もこちらで用意いたしますわ」
この辺は私のお小遣いを管理しているエイミーと相談して解決済みだ。
前世みたいに何万部も刷るのならともかく、数十冊~百冊くらいまでなら既存の羊皮紙を使って筆記師を雇っても作れるくらいの貯金があるらしい。
しかも、この屋敷には使っていない倉庫もいくつもあるらしくて、何十年という長期ならともかく、数年単位で本を保管するくらいなら問題ないとのことだ。
「ええと……」
私の言葉が信じられないのだろう。スペンサー子爵は、お父様の様子をうかがっている。
「後で娘と話し合いをするが、公爵家として保証しよう。原材料費に加えて、依頼料と技術料を支払うよ」
「でしたら、こちらとしては問題ありません。自領に戻ったら、紙の製作費、本を作る際にかかる費用などを算出して連絡させていただきます」
「うむ、手間をとらせたな」
その後は大人同士の話し合いがあると言うので、私はお父様とスペンサー子爵を残して応接室から出ていくことになった。
ちなみに、私が持ってきていた物語は置いていくようにと言われた。




