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14 スペンサー子爵との面会

「待たせたね」


 声をかけて入室するお父様と一緒に、応接室へと入室する。

 応接室の中には既にスペンサー子爵と思われる男性がいて、こちらに対して礼をしている。

 この世界の……というよりも貴族としての常識だけれど、上位の者が許しを出すまでは下位の者は口を開いてはならない、というのがあるからスペンサー子爵から声は発せられない。


「楽にしてくれ、スペンサー子爵。お互いに座ろうじゃないか」


「はっ、ありがとうございます」


 お父様が声をかけたことで、スペンサー子爵はようやく姿勢を楽にして、向かいにあるソファに腰を掛ける。


「こちらは私の娘でローズマリー。……挨拶できるかい?」


「初めまして、スペンサー子爵様。ジェイソン・グラースの娘、ローズマリー・グラースです。以後お見知りおきを」


 爵位上は子爵位を持っているスペンサー子爵の方が上位なのだけれど、私がグラース公爵を継げば上下は逆転する。

 それを考えるとスペンサー子爵が居丈高に対応するのも問題だし、かといって不確定な未来を前提に私が威圧的に対応するのも問題だ。

 だから、この場では対等という立場で、年齢が上のスペンサー子爵に私が敬意を払うという形で落ち着ける。


「これは、丁寧なあいさつをありがとうございます。ハリー・スペンサー、グラース公爵様のご厚意で子爵をやらせていただいております」


「厚意などと謙遜を。子爵領の農業の技術は公爵領でも見習わせてもらっているよ」


「公爵領に貢献できているのなら幸いです」


 この辺は型通りのあいさつって感じ。確かにスペンサー子爵領では農業改革が行われたことがあって、それが公爵領のみならず王国中に広まったという過去がある。

 でも、それは既に数十年も昔のことで、現在は他の寄子と同じくらいの収入に落ち着いていると習った。


「そろそろ本題に入ろうか。今回、スペンサー子爵を公爵家に呼んだのはローズマリーなんだ」


「公爵令嬢様が?」


「ローズマリーでよろしいですわ。スペンサー子爵様」


「では、こちらも様付けはよろしいですよ。ローズマリー嬢」


「ではスペンサー子爵と。私、スペンサー子爵から献上された、こちらの本が気になりましたの」


「これは……確かに私の領で作られた本ですね。こちらが何か?」


「お父様の書斎にある他の本とは違って、紙の材質が違うでしょう?」


「確かに、こちらの本は普通の本に使っている羊皮紙ではなく、特殊な手段で作られた紙を使用していますが……」


 スペンサー子爵は困惑したような表情で、こちらをうかがっている。多分、なぜそれを知っているのかと考えているのだろう。


「お父様の書斎にはたくさんの本がありましたので、材質の違いに気づきましたの」


 まあ、そもそもこの本は他の本と違って小さかったし、触り心地も違うから普通の本じゃないことは誰でもわかるだろうけど、


「紙の製法が知りたいのですか?」


「製法は子爵領の財産ですから、知りたいとは思いません。私が知りたいのは紙を大量生産できるのか、とういことです」


「大量生産……ですか。確かに従来の羊皮紙に比べれば、多くの紙を作り出すことはできます」


 目の前にいるスペンサー子爵は、私がお遊びではなく、今回の面談の主要人物だと判断したのか、慎重に受け答えをするようになった。


「心配しないでください。従来の羊皮紙を駆逐する勢いで量産しろと言っているわけではないのです。私は新しい本を作るにあたって、大量の紙を必要としているのです」


「新しい本……ですか?」


「ええ。今の本は神話に関するものか、仕事に関するものばかりで面白味がないでしょう?」


「面白味…………本というのは、そういうものかと」


「もちろん、神話や職業に関する本のようにお堅いものも必要ですけれど、私のような子供でも楽しめるような本があれば、もっとみんなが本を読むようになるかもしれないでしょう?」


「……まあ、一理ありますか」


「こちらは公爵家で働く者たちから聞いた故郷の伝承や寝物語を記したものです。こういったものを、新しい本として売り出したいのです」


「少し拝見しても?」


「ローズマリー、私にも読ませてくれ」


 スペンサー子爵とお父様が読みたがるので、それぞれに物語を書いた羊皮紙を渡す。

 書いてあるのはみんなから聞いた伝承や寝物語だけど、そのままだとき読みづらいので物語として読みやすいように私が書き直している。


「ふむ、確かにこれが本になっていたら、面白い……ですかね」


「しかし、ローズマリー。これでは本にはならないのじゃないか? なったとしてもすごく薄い本にならないかい?」


「確かに1つ1つの話は短いですね。でも、複数のお話を1冊の本にまとめてみたらどうでしょう?」

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