13 私の評価
今日は待ちに待った紙の製作者である、スペンサー子爵との面会よ!
お父様にお願いしてお願いしてお願いした結果の面会だから、朝からワクワクが止まらないわ。
まあ、私が5歳なことと、初めて会う貴族だということで、面談にお父様が同席することになったのは誤算だったけれど、それすら気にならないほど浮かれているわ!
「お嬢様、身支度ができないのでじっとしていてください」
「うっ、ごめんなさい」
ワクワクしすぎたのか、エイミーから注意されてしまったわ。
スペンサー子爵と会うことはエイミーも知っているから、エイミーも気合が入っているのよね。
「お嬢様、今日はお嬢様が初めて他の貴族と会う日です」
「? エイミーも子爵家の娘でしょう? 他の貴族といえばエイミーだって他の貴族じゃない?」
「お嬢様。当主と令嬢、あるいは令息はまったく違います。確かに使用人も貴族の出ですが、全員が家を継げない令嬢や令息です」
まあ、言われてみればそうか。前世でいえば当主は社長、令嬢や令息はその娘や息子だものね。
いくら社長が偉くても、会社を継ぐつもりのない子供や次ぐ資格や能力のない子供は尊重されないものね。
「つまりエイミーは今回が私にとっての貴族デビューになるから、気合を入れろと言いたいのね?」
「少し違います。デビュタントが先のお嬢様にとって、スペンサー子爵との面会が評価の基準となります」
この世界のデビュタントは10歳。高位貴族なら寄子を、中位から下位貴族なら周辺の貴族を呼んで子供をお披露目させるのよね。
だから親はそれまでに一通りのマナーと知識を子供に叩き込んで、次代の優秀さを喧伝するのが通常ね。
「つまり、うかつなことは話してはいけないということ?」
「いいえ。お嬢様は5歳で、デビュタント前だということは向こうもわかっているので、マナーや知識については咎められないでしょう」
「ふむ……じゃあ、何が問題?」
「お嬢様のドレスやメイクが崩れていた場合には、まともに身支度も出来ない侍女がグラース公爵家にいると伝わってしまいます……ですので、身支度をきちんとさせてください」
ニッコリと笑うエイミーだったけれど、その笑顔にはいつもと違う迫力があって私は青ざめながら大人しくせざるを得なかった。
エイミーの言う通り、私の評価が下がるということは私自身だけでなく、グラース公爵家で働いていくれている人たちの評価も下げることになる。
本を大量生産できるかもしれないということに浮かれていたけれど、多くの人の人生を背負っているということ再認識しておかないと危ないわね。
「心に留めておくわ。私の評価がみんなの評価につながることを」
「はい、心に留めておいてください」
そう言いながら、エイミーは私の身支度を続けていく。今日は気合を入れて身支度をしているなとは思っていたけれど、そういう意味があったのね。
「ねえ、エイミーは本が作られるようになったら嬉しい?」
「はい、お嬢様の考えは素晴らしいものですよ。特に貴族の女性には好まれるものになると思います」
「そう? 自分で言うのもなんだけど、目新しいって以外には受け入れられないかもしれないと思ってるのよ」
お父様とお母様に聞いた話では、貴族というのは流行の最先端にいることを重要視しているということだから、新しい本を作れば目新しさから受け入れられることはあると思ってる。
でも、聖職者以外では本を読むことが常態化している人は貴族でもいないらしいし、一過性の流行で終わってしまう可能性もある。
「貴族女性は噂話が好きですから、本で知識を仕入れてお茶会で話すという風に使われると思いますよ?」
「噂話が好きなんだ……だったら、恋愛とかをメインで扱う話の方が受け入れられやすいかな?」
「恋愛ですか?」
「そう。例えば幼馴染同士の恋愛とか? 家族の反対に合って、それを二人が協力して乗り越えるとか、あるいは身分違いで引き裂かれるとか」
色々と考え付くけれど、身分が明確に決まっている世界だけに前世のように自由に話を作るのは危険だろう。
特に前世で流行っていたような王族が平民の娘と恋に落ちるだとか、下位貴族の娘と恋に落ちるような話は作らないほうが良さそうね。
この世界がどんな世界かはまだ分からないけれど、それがきっかけとなって自分が悪役令嬢として扱われる可能性があるのだから。
「面白そうですね。お嬢様が書かれるのですか?」
「本を作ろうって考えているのは私だから、まずは私が書くわ。でも、その本を読んで色んなことを思いついたら、他の人にも書いて欲しいわね」
私の望みは好きな本を自由に読むこと。そのためには、私がサンプルとしての本を作って、それ感化されて本を作ろうと考える人を増やさないと。
まずはスペンサー子爵との面会。その後は本の量産。そして、自由に本をかけるような環境づくりね。




